折原家
□お留守番の日
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<お留守番の日>
新宿 某マンション
愛子視点
『……本当に二人でお留守番できるの?』
「できるっ!おるしゅばんできるもん!」
「おねえたんだからできるもん!」
「ママ、早くしないと時間無いんじゃない?」
二人は手を上げてニコリと返事する。
それが逆に心配で―――やっぱりやめた方がいいんじゃないかと思うが、旦那はそれを断るかのように私を急がした。
『わ、解ってるけど……!』
「二人ができるって言ってるんだ。信じてあげるのも親なんじゃないのかい?それに……今日は波江さんが一緒に居てくれるんだし」
渋る私に旦那は目線をソファに腰掛ける一人の女に目を向け、口元を釣り上げる。視線を感じたのか女は無表情で[何よ?]と手は止めずにこちらに目を向け、あまり興味はないようだ。
「ママ!なみえしゃん、いっしょいっしょ!へいき!」
「なみえいるもん!なみえねーいっぱいいーっぱいあそんでくれるの!」
二人はお留守番、というものを経験した事がないので元気に、そして楽しそうに言うが後の事を考えるとやっぱり―――と決断に迷ってしまう。
こうなった経緯、それは数日前に遡る。
―――――――……
数日前 某マンション
愛子視点
「ねえ、愛子。デートしようよ、デート」
『……え?デート?』
唐突だった。
何もない日常。
昼下がり、ご飯も食べ終わり、のんびりとした空気の中で旦那が私を呼ぶ。答えるようにそちらへと向かえば、その言葉は発せられた。
旦那が何を考えているか、なんて解らないが、その言葉を噛み砕くように、そして意味を考えるように繰り返せば、頷いて肯定する。
「そう、デート。子供達が生まれてからあんまり行ってなかっただろう?だからさ、気晴らしにどこかに出掛けない?」
『……二人はどうするの?』
5歳になったとはいえ、まだまだ小さな子供だ。
そんな子供がどれだけの時間か解らないが、二人で留守番しなければいけない。置いていくのは簡単だろう。
――「すぐに帰ってくるから」
そう言えば二人はグズるかもしれないが、納得し、行かせてくれるだろう。だが、帰って来た時―――もし部屋が荒らされていたら?泥棒や恨みを持った人間が二人を誘拐してしまったら?
たくさんの可能性が考えられ、怖くて留守番なんてさせられない、と思っていた私だったが―――
「うん、その事なんだけどね。波江さんが、特別に見ててくれるんだって」
旦那の発せられた言葉が一瞬理解できなかった。
―――え?
―――誰が?
固まる私とニコニコと笑っている臨也。
今この場にいない人物を想像し、あの人が?と純粋に思ってしまった。