折原家

□浮かぶ水
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「あいしゅ、さきたべるのっ!」

「あいしゅあいしゅあいしゅーっ!」

『あーはいはい。解った、解ったから静かにしようね』


尚も[あいしゅあいしゅ]と叫び続ける二人に周りの視線も自然とこちらへと向き、私は恥ずかしさとうるささで、耳を塞ぎながら了承するとやっと二人は静かになり、ホッと胸を撫で下ろした。


―――二人に良いように使われてる気がする……。


親ならばしっかりしなければいけない所なのだが、中々現実簡単に行くわけもなく。

それに、たくさん汗を掻き、疲れているであろう二人にご褒美ぐらい出してあげてもいいか、と思った。

ハンカチで二人の汗を拭いつつ自分も汗を拭い、やっと体がクーラーの効いた部屋に慣れてきたのか汗も掻く事無くアイス屋さんへと向かった。


『どのアイスがいい?』

「んーとね、んーとね……これ!」


たくさんのアイスが番号と共に並べられており、見ているだけで涼しさを感じる。

紫苑が選んだのはいつも買うような子供用のではなく大人用の大きなアイスクリームだ。


『そんな大きなアイス、食べたらお腹痛くなっちゃうよ?』

「うぅー……じゃあこれ」


一度ご飯を食べに行った時に紫苑は大人用の大きなパフェを食べたがり、臨也に[そんなに大きなの食べられるの?]と聞かれていたが、紫苑は大きく頷き、

食べ始めたのだが―――半分も食べられず残し、そしてその後腹痛で保育園を休んだぐらいだ。それからは[お腹が痛くなるよ?]と言われると素直に言う事を聞くようになった。


「あたしはねー……これ!」

『筑紫もお腹痛い痛い、ってなっちゃうよ?』

「……ママのケチー」


どうしてこうも子供というのは大きな大人用のものを選びたがるのだろうか。

まだまだ子供だと思っているのは私や臨也だけで、心は本当は大人に近付いているのだろうか。


―――こういうのをマセてる、っていうのかな……。


テレビの中でしか聞いた事の無い言葉を思い浮かべながら二人のアイスを買うと、

座って食べられるような席がアイス屋さんの正面にあったので、そこに家族三人で座って少し休憩する事にした。


「ねーねーなちゅやすみ、おでかけしないのー?」

「おでかけしたい!」

『うーん……パパに聞いてみないと解らないかな』

「ママはいっつもいーっつもパパ、パパってっ!ママはおでかけしたくないのー?」


不満そうな筑紫に私は苦笑を浮かべる事しかできず、案外当たっているな―――なんて考えていた。

確かに私は[パパに聞いてみないと]、[パパがいいよって言ったら]なんて臨也の了承が無ければ何もできない、とばかりに[パパ]という言葉を使ってきた。

でも、だからと言って臨也の意見も聞かなければきっと計画する前に失敗に終わるのは目に見えているので、やっぱり彼に聞かなければ何も始まらないのだ。
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