折原家
□浮かぶ水
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<浮かぶ水>
8月上旬 新宿某所
愛子視点
「ママーあつーい!」
「かゆいよぉ……!」
『汗疹ができちゃったかな……。ほらほら、掻いちゃ駄目でしょ』
いつものように買い物に出掛けた私達三人。
今日はいつも行っているスーパーではなく少し遠くにあるスーパーに向かっていた。理由は簡単。いつものスーパーが棚卸しとかで休みだったからだ。
東京という場所は都道府県の中でも本当に小さい所にも関わらず、人口密度が高い。これだけの人数がどうやって詰まっているのか疑問に思う程だ。
例えるならば、押し入れの中にしまったものを取り出そうと開けた瞬間、中に入っていたものが溢れるように飛び出してくるような感じだ。
その人口密度の中での夏は、アスファルトがジリジリと燃えているようで―――正直、暑い。
確かに涼しい日もあるのだが、今日に限って最高気温が35度を越えるというのだから本当やめてほしい。愚痴愚痴文句を言っていても仕方がないのだが、暑いのを暑いと言って何が悪い。
―――早く家に帰りたい……。
家ではきっと汗も掻かずに涼しそうな顔をした臨也がクーラーの下でパソコンを弄っているか、携帯電話を触っている頃だろう。
二人も暑い、暑いと言いながらくっついてきては抱っこをせがみ、私だって暑いんだ―――と言えば二人は泣きそうな顔をして[あーつーい]と頗(スコブ)る不機嫌だ。
「マーマー!あーつーい!」
「あついあついあついっ!」
『……はいはい。暑いって言ったって涼しくならないんだから我慢して』
「……あいしゅたべたい」
「あたしもあいしゅたべたい」
[暑い]と繰り返す二人に私もイライラしてきて、それでも怒らずに黙って歩いていると紫苑が楽しそうに話をしている高校生が握っているソフトクリームを見つけ、
呟くようにねだるので、[着いたらね]とお店の目的を話せば二人はやっと御機嫌になったようだ。
後もう少しでお店に着く―――そうすればきっとクーラーが効いており、二人もその涼しさに落ち着いてくれるだろう。
『あ!あそこかな。じゃあ行こっか』
「うん!あいしゅたべる!」
「あたしもあいしゅたべる!」
臨也からいつものスーパーの次に近いスーパーを教えて貰った目印が見えてきており、私の心は先程のイライラなんて吹っ飛んでしまうぐらいだ。
二人もアイスが食べられる事が嬉しくて仕方ないのか、汗を掻きながら一生懸命歩いている。
やっと中に入った頃には温度差に驚いたぐらいだったが、節電を心掛けているお店らしくそこまで寒くは感じず、表現するなら[丁度いい温度]という感じだ。
「あいしゅ、さきたべよー?」
「あいしゅたべたい……」
『でもね、二人とも。アイス買ったら売り場の中、入れないよ?』
アイスを食べながら食品売り場に入る事はできず、食べ終わるか帰りになってしまうかにしなければいけないと伝えれば、二人は不機嫌そうに[あいしゅー!]と大きな声をあげた。