折原家
□折原臨也の日記
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時々俺に抵抗する事もあるが、それもまた彼女の良い所だと思っているので特に気にしてはいない。人間、[YES]だけじゃつまらないからねぇ。
[筑紫]、[紫苑]と名付けた子供達は俺達にそっくりだった。
時々俺にそっくりな紫苑が愛子みたいな反応をすると新鮮で、筑紫が俺みたいな行動をすると不思議な気持ちだ。
そんな我が子を観察する、という名目で子育てをしていた筈が―――いつの間にか周りには[親馬鹿]だと言われたり、[溺愛]なんていう言葉を使われたりと散々だ。
そんなつもりはなかったのにな―――なんて愛子に言えば彼女は笑って、[親になったんだよ]と呟いた。
―――親、ねぇ……。
[親]というものを互いに知らない二人。
両親があまり日本、という国にいる事がなく帰ってきても[病気とかしていない?]なんていう連絡ぐらいだ。
特に寂しい、と感じた事はないが、[親]というものはこういうものなんだな、とは小さいながらに理解した記憶がある。
そして、愛子は守るべき筈の大人達からの虐待により、心を閉ざしてしまい、そしてその両親の[嫌な噂]が広まり、学校では虐めに合い、散々な目にあってきたのだろう。
出会ったのが違う場所であったのなら、俺はそんな彼女の過去に興味を引かれる事も無く[一人の人間]として愛していたと思う。
そんな俺達が子育てをするんだ。
間違っても誰にも怒られない。道を踏み外したとしても結局は自分達が後悔するだけだ。それに正しい道、というのが警察官や弁護士といったものとは限らないのだから。
様々な事を考えつつ、俺は一回だけ輪投げを体験してみる事にした。
ヨーヨー同様、何が面白いのか解らないが、立っている棒に目がけてあの女性が作ったと思われる特製の輪をその中に入れるだけだ。
三回できるようで俺は適度に楽しむ程度にやってみる事にする。
一回目―――少し角度がずれたようで棒には当たったが、中に入る事はなかった。
二回目―――やはり何かがいけないようで棒に当たりはするが、中に入る事はなく、このむず痒さは俺も輪投げ、というものにハマりつつあるのかもしれない。
最後の三回目―――角度を決め、狙いを定め、棒の中に入るようにすると音もなくストン、と輪は棒の中へと入っていき、周りからは[すげぇ]という歓声が聞こえてきた。
「はい、景品の金魚ちゃんストラップだよ!大事にしてね」
「…………」
あんなに苦労して輪を入れたのに景品が金魚のストラップなんて―――溜息を吐きつつ、楽しんでいた自分に気付き、
収穫は0ではなかったな、とストラップをポケットにしまい、冷めてしまったであろうみたらし団子を妻と我が子へと持って行く。
そういった経緯を通し、今俺は自宅兼事務所であるマンションまで戻って来ていた。
中では既に夏休みを迎えている双子が養育テレビを見ながら一緒に手を叩いており、その近くで愛子が[パパが帰って来たよ]と俺の帰宅を知らせた。
「とーとー!おかえりー!」
「パパおかえりー!」
俺にやっと気付いたのか、二人は近付いてきては両手を広げ、抱っこしてくれと合図する。
それを断る俺ではない為、抱き上げると重くなった二人の体重を嬉しく思いつつ、いつかは抱っこもできなくなるんだな、といつもの習慣さえも消えてしまう事が寂しく思った。