折原家
□折原臨也の日記
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<折原臨也の日記>
池袋某所
臨也視点
「まいど!水槽はこれでいいのかい?」
「ええ。屋台でたくさんの金魚が釣れましてね」
情報屋の折原臨也、なんて名前が知られているこの俺が―――なぜ水槽や金魚、水の生物を取り扱った店に来ているかと言えば、理由は簡単だ。
いつだったか、花火大会をやろうという話の時―――双子の子供達が浴衣を欲しがった。俺は特に欲しいとは思わなかったが、妻である女に迫られては仕方がない。
俺は浴衣ぐらい、と言って肯定し、数日後家族四人で浴衣を買いに行き、その晴れ舞台となるお祭りへと行った時だ。
特に面白いものが見られるわけもなく淡々とした趣味を楽しんでいると、子供達はヨーヨー釣りへと走り寄っていく。
―――あんなもの、何が面白いんだろうねぇ。
ただ風船の中に水が入っているだけだというのに、人々はそれを必死になって取ろうとする。それが我が子であっても。
何が面白いのか解らなかったが、そういう必死になって何かを取ろうとしている人間を見るのも好きなので、眺めて見れば原理が解ってしまえば後はそれを実行するだけだ。
だが、やってみるのと考えて見るのとは違い、それは反則だ、これはやってはいけない、という掟があるらしく、中々思うように取れないらしい。
―――風船の中の水の量、とか関係するのかな?
遠くから眺めているだけなのでどうなっているのかよく解らないが、
釣り上げた人間の中には軽くパシャ、パシャと音が鳴るだけのものや大きくゴムが伸び縮みするものがあるらしく、水の分量によって変わってくるようだ。
双子の子供達も自分の好きな色だという、黄色と紫色のヨーヨーを必死になって取ろうとしているが、中々上手くいかないらしい。
―――水につけなければいいのにねぇ。
それがまだ5歳の子供には難しいらしく近づけていく時には既に糸が水浸しだ。あれでは取れるわけがないだろう。結局屋台の女性に好きな色のヨーヨーを貰い、子供達は御機嫌だった。
そんな自分と妻にそっくりな双子が笑っているのが嬉しくて、ついつい甘やかしてしまうのだが。
次に向かったのは、どこだったかな。どうでもいいか。まあそんなこんなで金魚すくいへと向かい、双子の子供達―――筑紫と紫苑は金魚すくい初挑戦となる。
「取れるか取れないかにこだわらず、この状況を楽しもうよ、ねぇ?」
独り言のように三人の様子を窺いつつ、俺はみたらし団子を買いに行く。
特に欲しいものではないが、これを妻―――愛子がどんな反応をするのか楽しみにしつつ、3本を券で買い、戻ろうとするが―――
「お兄さん、ちょっと遊んでいきなよ!」
背後から声を掛けられ、俺はこういった気配にも鈍感になってしまったのか―――と僅かに自分自身に落胆した。
結婚する前は、そして結婚してからも気配には敏感だった筈が、今ではどうだ。後ろに立たれても気付けずに、ただ立ち止まっている自分がいる。