折原家
□祭りの時期
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<祭りの時期>
7月上旬 臨也のマンション
愛子視点
花火大会をやろう―――そう決めてから数日。
何気なく新聞に入っていた広告を眺めるとたくさんのスーパーやパチンコ店、電化製品などが入っており、これいいなぁ、なんて呟きつつ、その中で私は気になる広告を見つけた。
7月13日〜7月14日
盆踊り大会開催!
PM7:00〜PM10:00
PM7:00〜PM9:00
雨天決行
―――みんなお祭りに行く、って言ったよなぁ……。
その広告を手に取り、メールの内容を思い出していると―――
「ママー!ゆかちゃかってー!」
「ゆかちゃゆかちゃーっ!」
どこで習ってきたのか解らないが、[浴衣]という単語を吐き出しつつ、走って私の背中に突撃する双子。
頭をごつん、とぶつけつつも二人は膝の間に頭を入れ、スポ、と顔を出してニヤリ、と父親に似た笑顔を向けつつ[かってー]と可愛らしい声でおねだりする。
『……どうしてそんなものを』
「なみえがねーゆかちゃって、はなびするときにきるっておしえてくれたー」
「あたしもゆかちゃきたい!」
波江さんの方をちらり、と見つめれば悪い事は言っていないわ、と言われているかのような目線を向けられ、返答に困ってしまった。
確かに変な事は言っていない。だけど―――どうしてそれを父親ではなく私に言うのだろうか。
私はあまりお金を持つ方ではなく、持っていたとしても今日のご飯の為のお金と僅かなおつり。
それだけで浴衣が買えるわけも無く、もしあったとしてもそのお金を取られてしまうと今日のご飯が買えなくなってしまうのだ。
『……パパに聞いてみたら?』
「とーと、だめっていうもん!」
「ママいいでしょー?ゆかちゃっ!」
何となく理解してしまった。
父親は甘やかせる所は周りがビックリするぐらいに甘やかせるのだが、厳しい所はとことん厳しい。
それにお金の事も変な所でたくさんのお金を消費するのに、自分が[要らない物]だと認識したものには絶対にお金を使おうとしない。
多分、双子は父親に浴衣を買ってほしいとお願いしても[要らない物]と認識され、買ってはくれないだろう―――そう判断したのだろう。
なので、父親―――折原臨也の妻であり、そして母親である私に言えば買ってくれるかもしれない、と思い、こうやっておねだりしてくるのだ。