折原家
□散りゆく花
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<散りゆく花>
7月上旬 臨也のマンション
愛子視点
「ねえ、花火しようよ」
蒸し暑い気温が続く中、節電なんて気にしていないかのようにクーラーで寒いほどに冷やす室内で突拍子もない言葉を吐き出した。
それぞれ自分の好きな事をしていた私達はその発言に首を傾げ[花火?]と疑問を彼にぶつける。
だが、彼は私達の疑問に答える気はないのか、楽しそうに頬杖を付きながらパソコンに向かって[どれにしようかなぁ]なんて呟いていた。
『……何で花火なんて』
「特に意味はないさ。……それに最近じゃどこもお祭りや花火なんて当たり前だろう?だから、俺達も流行に乗ろうかと思ってさ」
『流行って……』
そういうのは流行とか流行りとかの問題ではなく、[夏の風物詩]として花火やお祭りなどが開催される。
だが、臨也にとってはそういう[夏の風物詩]は服や言葉―――それらが流行るものと同じような感覚なのだろう。
「はなびやりたーい!」
「パチパチー!」
それを聞いた子供達は既にやる気満々なのか、臨也の言葉を聞いて玩具などを放り投げて彼の許へとやってきて[いつやるのー?]と楽しそうに臨也と椅子の間に入ろうとしている。
「そんな所に入ったら危ない……って、ちょ、痛い痛い」
紫苑が椅子へと埋もれていく中で臨也は追い出されるように前へと出てくるが、降りる気はないのか支えるように、そして意地を張るかのように座り続けている。
だが、そんな臨也の気遣いなんて関係無いかのように筑紫が彼の手を引っ張り、その空いた隙間から弟はスルスルと落ちていき、
最終的には臨也が座っていた椅子は紫苑が占領しており、仕方なく立ち上がって机にもたれ掛っている。
「はやくやろー!」
「……やるにしても花火が無いと何もできないよ?これからそれを決めようとしてたのにさぁ」
子供相手に文句を言うかのように椅子に座る小さな王様に目を向け、腕を組んでいた。
だが、その小さな王様は筑紫が椅子の上に上って来た事によって、地位を奪われるかのように二人にとってはまだまだ大きな椅子は奪われてしまう。
「ぼくがすわるのーっ!」
「あたしがすわるーっ!」
椅子の上で喧嘩する二人に臨也は危ないからと言って両側を持ち、反動で倒れないように支えるように掴んでいた。
「喧嘩するのはいいけど、怪我したらどうするの?お前達が怪我するのはあまり趣味としてはいいものじゃないんだけどなぁ」
『趣味言わないの』
遠回しに[怪我して欲しくない]と言っているのは解るのだが、すぐに趣味や観察などという言葉を使わないでほしい。
前に紫苑がぬいぐるみを椅子の上に置き、それをそのまま放り投げてはもう一度椅子に座らせる、そんな遊びをしているのを見て、どうしたのかと聞いてみれば―――
――「ぬいぐるみがどうやったらこわれるのかかんさつしてたー!おもしろいでしょー?」
なんて言っていたのを思い出し、流石の私もその時だけは怒った。
ぬいぐるみが可哀そう、なんていう生易しいものではなく、せっかく買って貰った大事なものを粗末にするな、そう怒ったのだ。