折原家

□初めてのおつかい
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<初めてのおつかい>


新宿 臨也のマンション

愛子視点


≪竜太、真美ちゃんのオムツ、一人で買いに行ける?≫

≪おれもう5さいだから、ひとりでおつかいなんてかんたんだよ!≫

≪凄いねー。じゃあ、真美ちゃんのオムツ買ってきてくれる?≫


夜。

いつものように子供達はソファに座ってぬいぐるみを抱え、テレビを食い入るように見つめており、

それに隣の臨也も携帯を弄りつつも内容が気になるようで、チラチラとテレビを眺めていた。


その中でも私は食べ終わった食器を洗い、拭く作業に追われているので、あまりテレビの内容を見る事はできない。

それでもテレビから流れてくる音声で、どんなテレビなのかは大体予想がつくのだが。

今やっているのは[初めてのおつかい]という番組で、小さな子供達が初めて一人でお使いに行き、目的の物を買ってくるというものだ。


中でも本当に小さい子では3歳や4歳などで行かせる子もいたり、本当にそんな年齢で―――と思う子まで年齢は様々だ。

自分の子供達とは大違いだな、と思いつつ東京で一人でお使いに行かせるのはとても心配だ。


今やっている場所もどこか人通りが少なく、近くに知り合いがいるような―――そんな場所でのおつかいだ。それならば両親は安心だろうし、何があっても大丈夫だろう。

だが、東京は人混みなどもあり、双子が知らない場所だってまだまだたくさんあるし、池袋でなら知り合いがたくさんいるのでどうにかなるかもしれないが、ここは新宿だ。

知り合いと言っても保育園の友達、そのお母さん、臨也の仕事相手ぐらいでは若干の不安は残されたままだ。


―――行かせてあげたいんだけどなぁ……。


こんな事を言ったとしても[危ないから]と絶対に臨也は反対するだろうし、私も子供達の一人歩きをさせるのは僅かな抵抗がある。

そんな事を考えながら食器を食器棚に入れていると―――


「ママー!ぼくもひとりでおちゅかい、いってくる!」

「あたしもいくー!」


と小さな足でトテトテと台所の前までやってきて、満面の笑みで口を開く双子。

私は次の言葉を予想し、[ごめんね]と口を開こうとしたのだが―――


「いいんじゃないかな。少しぐらいならこの子達の為になるだろうし、いつまでもお使い一つもまともにできないようじゃ、小学校に上がった時に馬鹿にされるかもしれないからねぇ」


と予想とは全く真逆の言葉に私は[いいの?]と声を裏がえて問いかけると、彼はクスクスと小さく笑って足を組んだ。


「声、裏返ってるよ?……それに、前にも言っただろう?自分が過保護にしてる自覚はあるって。だからね、少しだけ外の世界を味あわせてあげたいんだ。

この子達が観ている世界を、そしてこれから見るであろう世界を広げてやるのも親の務めだろう?」

『……そうだけど……』

「安心しなよ。俺がそう簡単に二人をお使いにやると思うかい?」


何かを思いついたのか、彼は口元を吊り上げ、何かを企んでいるような顔つきとなった。

こういう時、彼は私が考えもしなかった事を簡単にやってのけてしまうので見習いたい、と素直に尊敬してしまう。
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