折原家

□歯磨きしましょ
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―――こんな姿、見られるわけにはいかないよね……。


服を脱ぐとそこら中から出てくる残ってしまった痣の跡。

いつもは服やスカートで隠れて見えないのだが、こうやってお風呂に入れば全身を脱ぐので嫌でも見えてしまうのだ。それに臨也と初めて繋がった時も彼は眉を顰めて小さく―――


――「酷いね、君の身体をこんな風にするなんてさ」


と呟いていたのを覚えている。

それから私は絶対に子供達に見られないようにしようと痣が見えてしまいそうな露出の高い服は着ないようにしたし、見えたとしても本当に赤ん坊の時だけなので覚えているとも思えない。

これからプールや海など双子には楽しいであろう行事が待っている。だけど、私にとってはこんな身体を見せるだけの行事だ。


それに、もし水着なんて着ようものならまず最初に疑われるのは臨也だ。家庭内で夫が嫁を暴行して殺す―――そんなニュースだって流れている世の中だ。何があるのか解らない。

あんな優しくて大切にしてくれる旦那が、世間には[裏で何をやっているか解らない男]ともっと別の意味で認識されるだろう。


そんな噂なんて流させない。


その為にも私が水着になる事は許されないのだ。だけど、臨也は[そんな事、気にしなくていいんだよ?]と笑って答えてくれる。それが嬉しくて、そして心が締め付けられた。

もしかしたら彼に迷惑がかかるかもしれないのに―――それなのに彼は全く迷惑そうな顔はせずに私に水着になっても良い、と言ってくれる。


―――気持ちは嬉しいけど、やっぱり私にはできないよ……。


お風呂に浸かりつつ、私は頭を壁に押し付け天井を仰いだ。

湯気でぼんやりと曇っている鏡。普段なら直接明かりを灯してくれる電気も、今は湯気でぼんやりと薄暗い感じだ。


―――こんな痣だらけの身体、気持ち悪い……っ!


普通ならそんな罵倒だって言われたって仕方のないような身体だ。

殴られた跡、引っかかれた跡、肉を抉られたかのような跡、そんな傷が残っており、自分で見て気持ち悪いと思ってしまった。それなのに臨也は―――


――「どこが気持ち悪いの?君は何も悪い事なんてしていないんだろう?それなら胸を張りなよ。オドオドしてるから勘違いされるんだよ」


と私の身体を見ても[気持ち悪い]と言わなかった。

それだけでどれだけ私が救われただろうか。他人に身体を見せるのは、あれ以来恐怖症とでも言える程に怖かった筈なのに―――臨也には全然そんな恐怖は浮かばなかった。


嬉しくて嬉しくて―――ただただ、愛おしいと思った。


私の身体を見ても[気持ち悪い]とも言わずに、ずっとこうやって愛し続けてくれる臨也。

それなのに私が我儘を言うわけにはいかないじゃないか。そんな事を考えながら私はお風呂から出ると身体を拭き、着替えを身に纏っていく。


「ママー!」

「ふきふきしたー?」

『したよ。ほら、触ってみて?』

「さらさらー!」


私が脱衣所から出ると臨也達はソファに座ってテレビを見ているようだ。

テーブルの上には食べ終わったであろうプリンの容器が置いてあり、後で捨てる為かスプーンと容器、蓋がきちんと分けられていた。
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