折原家
□歯磨きしましょ
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<歯磨きしましょ>
新宿 夜 臨也のマンション
愛子視点
「おふろー!」
「パパ、いっちょにおふろはいろー」
窓の外はまだ人通りも多く、煌びやかな人々が行き交う中、子供達は椅子に座り、紅茶を飲んでいた臨也の腕を取って誘うように口を開いた。
「もうそんな時間かい?……時間の流れっていうのは本当に短いものだねぇ」
誘われるがままに臨也は立ち上がり、子供達を連れて脱衣所へと向かっていった。
それを見届けつつ、私は三人のパジャマや着替え、タオルなどを用意する為に2階へと上がり、タンスからそれぞれの服を取り出し、脱衣所に持って行く。
『置いといたからね』
「ママありがとー!」
「とーと、みみにみずはいるのやー!」
「少しは我慢しなよ。ほら、お湯掛けるから耳塞いで」
筑紫らしき御礼の声と紫苑の頭を洗い終わり、シャワーで洗い流しているような声が聞こえてきて頑張ってるなぁと他人事に思いつつ、立ち去る私。
いつも臨也が双子をお風呂に入れてくれるのだが、中々子供をお風呂に入れる事に慣れないらしくよく双子は泣きながら[みみにみずはいったー]と泣き付いてくる事がある。
臨也は[これでも上手くなったんだよ?]と子供達の頭を拭きながら答えるが、双子には[へたー!]と、とても不評のようだ。
それでも父親との触れ合いが子供達にとって幸せな事らしく嫌だ、と言いつつ嬉しそうにああやってお風呂に入っていくのだから子供というのは不思議なものだ。
一度立ち去ったものの何もやる事がない私はソファに腰掛け、僅かに聞こえる子供達の話声に耳を傾けた。
「とーと!みてみてー!」
「こーら、紫苑。タオルで遊んでないでシャンプー取ってくれる?」
「これー?」
「それは体洗うシャンプーだって教えただろう?その隣の……それだよ」
「これー?」
「そうそう」
「えらいえらいしてー!」
「偉い偉い」
「パパ―!うさぎしゃんつくったー!」
「またお前達は……。パパが使うタオルが無くなるだろう?それ、頂戴」
「えー……せっかくうさぎしゃんつくったのにー!」
「えー、じゃないの。ほら、渡さないと後でプリン、食べるんだろう?もう買ってきてあげないよ?」
「やだー!プリン、たべるー!」
「やだー!これあげるー」
―――物で釣るのかよ……!
臨也らしくない[物で釣る]という行為にツッコんでしまう私。
子供達が好きなプリンをよくお土産として買ってくる臨也。そんな甲斐甲斐しい臨也の姿に波江さんは―――
――「男が女の機嫌を取ってるようね」
と的確な言葉を吐き出し、[そうですね]と笑ったのを覚えている。そう言われると臨也の姿がそのようにしか見れなくなって[買ってきたよ]と言う言葉で笑ってしまう。