折原家
□母の日
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「王道はカーネーションだけど……それだけじゃつまらないよねぇ」
「「?」」
何か役に立つ情報はないかと子供達を膝に座らせたままパソコンで調べてみたが、出てくるのは母の日ギフトや花束、
カーネーションを贈ろうというものばかりであり、これといっていいものがない。臨也は仕方ない、とばかりに溜息を吐き出し、子供達の相手をしていると―――
『あつー……ただいまー』
両手を団扇のように仰ぎつつ、妻である女―――愛子が玄関から入ってきてそのまま台所へと入っていく。
それに気付いた双子は父親の膝の上から下りて行くと母親の元へと駆け出し、帰ってきた事を喜んだ。
「ママー!おかえりー!」
「おかえりー!」
『ただいまー。ごめんね。寂しかった?でも、二人で帰れるなんて凄いね!』
「へへ……っ、しゃびしくなかったー!」
「えらいえらいしてー!」
『はいはい』
コップにお茶を注ぎ、一気に飲み干して流し台に入れていると双子が嬉しそうに抱き付いてくる。それに母親も微笑みながら頭を撫でていると―――
「おかえり。遅かったねぇ」
といつの間にか椅子から立ち上がり、台所へと入ってきた臨也が眉を顰めつつ、言葉を紡いだ。
そんな彼の姿を見て愛子は顔を引くつかせつつ、[た、ただいま]と小さな声で吐き出せば臨也はそれ以上何かを言う事はなくそのまま台所から出て行った。
―――??
―――どうしたんだろう……。
愛子は疑問に思いつつも双子の手を取って台所から出て行くと波江から[遅かったじゃない]と淡々とした調子で語られれば、
女も何を言っていいのか解らず、[すみません]と何に対しての謝罪か彼女自身も解っていないまま呟いた。
「ママー!ははのひ、たのしみにしててっ!」
「すっごーいのつくるのー!」
『そうなんだ、楽しみにしてるね』
横に並ぶようにソファに腰掛けると双子は両手を大きく使ってどれだけ凄いかを表現していた。
愛子はそんな双子に手を叩いて満面の笑みで答えており、三人の中でとてもほのぼのとした[日常]が流れていた。
その中で臨也は彼女の背中を観察するように鋭い目つきで見つめており、波江には[気持ち悪いわね]と素直な感想を吐き出されていたが、彼は何も答えず、
ただ妻の姿を観察し続け―――数分後、何かを思いついたのかニヤリ、と不気味な笑みを浮かべてキーボードに手を置いた。
「ママは赤と白、どっちが好き?」
『へ……?うーん……赤、かな』
子供達の相手をする愛子に臨也は唐突に問いかけ、答えを求めると彼女は瞬時に応える事ができず、
間抜けな声を出していたが、すぐに彼の目を見て赤色だと答えると彼は意味深な顔で頷いていた。
―――臨也の目が赤色だから……。
―――赤なんだよ……?
そんな彼女の惚気たような言葉は誰にも届かずに臨也はパソコンへと、愛子は子供の相手を、女は雑務を続けていた。