折原家

□あの人の誕生日
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何歳になっても容姿は全く変わらず、とても生き生きとしている。きっと同じ年の人から見たら羨ましがるだろうな、と思うのは恋は盲目、という事なのだろうか。

いつだったか、臨也と一緒に保育園に行った時に―――


――「と、とても素敵な旦那さんですね」


と褒められた事があった。

その時は[そうですか?]と恥ずかしさを隠す為に素っ気なく返したが、旦那が褒められると自分が褒められているようで嬉しくなる。


こんな素敵な人が私の夫になってくれた。生涯の伴侶になってくれた。それだけでも運命とやらに感謝しなければいけない。

思い返せば、良い事なんて臨也と出会った事と子供が生まれた事しかなかったのだが。


『それで……臨也は誕生日、どうやって祝ってほしい?』

「それを俺に聞くの?そういうのってサプライズとか、隠してお祝いするものじゃないのかい?」

『……最初はそうしようと思ってたんだけど……。子供達が言っちゃったし』


そう、私は臨也が仕事で出かけている時にでも、ケーキを買ってくるか作って用意し、帰って来た時にでも[おめでとう]とお祝いしようと思ったのだが、

思わぬところで子供達が邪魔をし、その計画は破棄しなければいけなくなった。まあ子供達が臨也のプレゼントを聞いてくれた事は感謝しなければいけない所なのだが。

それならば本人に直接どう祝ってほしいのか、と聞いた方が早いとばかりに口を開けば臨也は少しだけ残念そうに口を開きつつ、肩を竦めた。


「……じゃあ、一つだけお願いがあるんだ。聞いてくれるよね?」

『聞かないと駄目なんでしょ?それなら聞かないでよね』

「確認だよ、確認。夫婦はこういう作業を怠るから離婚なんてするんだよ。俺には考えられないね」


殆ど否定できない状況で聞いてくる臨也に私は溜息を吐きつつ、呆れていると彼は口元を吊り上げて楽しそうに言葉を紡ぐ。


『はいはい。それで?お願いって?』

「うん。……愛子と筑紫と紫苑と今日一日ずっと一緒に過ごしたい。それが俺のお願い、聞いてくれるよね?」

『聞いてあげたいけど……買い物とかどうするの?』


彼のお願いは強制に近いが、こればっかりはどうする事もできない。

今日の食材自体が無く、毎日[余り物]がないようにしているので冷蔵庫の中は子供達のジュースや臨也のお茶、水などしか入っていない。


「一緒に行くよ。だからさ、今日一日だけ一緒に居ようよ、ね?」

『……そこまで言うなら一緒に過ごそ』


どこまで一緒に過ごせるかなんて解らないが、臨也の誕生日だ。彼の気が済むまで付き合ってあげようじゃないか。それが一緒に過ごしてきた中で学んだ事だ。

それに波江さんが確認している書類で今日の分は終わったらしく、この後はゆっくりできるそうだ。

ゴールデンウィークなので忙しいのかと思ったが、反対に簡単な仕事ばかりしか回ってこないのですぐに終わるようだ。


「それなら良かった。愛子、抱き付いていいよね?」

『はいはい』


許可が下りる前に臨也は私に抱き付いてきてそのまま顔を埋めている。表情はどうなっているか解らないが、とても満足そうだ、というのは大体の予想はつく。
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