折原家
□あの人の誕生日
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<あの人の誕生日>
5月4日 昼 臨也のマンション
愛子視点
「ねーねー、とーとのたんじょうび、なにほしーのー?」
「俺の誕生日……ああそうか。今日は俺の誕生日だったねぇ。すっかり忘れてたよ」
「パパわすれすぎー!」
二人は保育園が休みなので、いつも一緒にいられない分だけ臨也に甘えたいようで、ずっと彼の足に纏わりついている。
臨也もまんざらでもないようで子供達と話す顔はいつもよりご機嫌だ。
いつもこんな顔をしていてくれればいいな、と一瞬考えたがニヤニヤしている臨也は気持ち悪いのでその考えはコンマ数秒で消えていった。
「ごめんねー。俺だって覚えてる事はたくさんあるんだよ?
お前らの誕生日だってママの誕生日だって結婚記念日だって、全部覚えてるんだ。ただ、あまりやらない行事は消えちゃうんだよ、どうしてもね」
「せんせーが、いいわけしちゃダメ!っていってたー!」
「パパわるいこー!」
臨也の言い訳じみた答えにも双子はバッサリと斬り捨て[パパわるいこー!]とケラケラと無邪気に笑っている。
それでも彼の顔が笑っているのは双子に構ってもらって、そしてこうやって親子の時間が過ごせるからだろう。まあいつも笑った顔はしているのだが。
「ねーねー!とーと、なにがほしーのー?ミニカー?」
「……ミニカーは紫苑が欲しい物だろう?俺はそういうものには興味がないから必要ないよ」
「じゃあおにんぎょうしゃんー?このまえすっごくかわいいおにんぎょうしゃん、うってたー!あれほしー!」
「欲しい、じゃないだろ筑紫。駄目だよ、お人形ならたくさん買ってあげただろう?」
「いーやー!あのおにんぎょうしゃんがほしーのっ!」
「駄目。そうもたくさんお人形は必要ないよ。1体で十分だ」
二人は臨也の誕生日プレゼントを聞いていた筈がいつの間にか自分の欲しいおもちゃを彼にねだるように言うが、臨也はそれを[必要ない]と吐き捨てる。
筑紫が言う人形とは着せ替え人形のようなものであり、その着せ替え人形がとても自分達では着られないような可愛い服を身に纏っており、種類は様々だ。
中にはとても安い服だと本当に百円均一で売っているようなものだったり、何千円もするような高い服もあるのが驚きだ。
子供の玩具といっても馬鹿にはできず、玩具のキッチンで本物のクッキーが焼けてしまう物だってあるのだから凄いと思う。
「アキちゃん、たんじょうびにかってもらうっていってたぁー」
「じゃあ筑紫も誕生日まで待たないと買ってあげないよ。紫苑もね?」
「「ケチー」」
口をそろえて[ケチ]と吐き出す双子に臨也は先程のニヤついた笑みが消え、僅かに目を鋭くさせた。
するとすぐにその雰囲気に気付いたのか、紫苑は[ぜったいかってもらうんだからっ!]と吐き捨てて自分の部屋へと走って帰っていく。
筑紫も口を尖らせていたが、弟の後ろについて部屋を出て行き、その姿を後ろから見つめつつ、臨也は小さく溜息を吐いた。