折原家
□風邪を引いたあの人
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『よしよし、大丈夫だからねんねしよっか』
「やぁー……ママ、いっちょぉ……っ」
「ねんね、するのやぁー……!」
落ち着かせるように頭を撫でたのだが、二人は私の言葉に過敏に反応し、小さく頭を振っていやいや、と表現している。
―――下には風邪引いた臨也がいるし……。
―――上には熱出した子供達がいるし……。
私はどうすればいいのだろうか。
臨也が上で寝ててくれればいいのだが、彼を説得するのは難しそうだ。それに今離れるわけにはいかないし、子供達の熱も気になる。
最近は暖かくて丁度いい気温だと思っていたのだが、風邪というのはいつどんな時にでも人間に襲いかかり、身体を蝕む。
臨也は最近忙しそうにしていたし、子供達も新しい組に慣れてやっとホッとした時だったのだろう。そこに風邪、という病気は入り込み子供達や臨也の体力を蝕んでいっている。
早く良くなってほしい、それだけを願い、双子の相手をしていると―――
「愛子、冷却シートって、どこにしまった……って、どうしたの?」
フラフラな状態の臨也が壁に手を付いて息を荒げつつ、問いかけてきた。
臨也は私と子供達に気付いたのだろう。細めていた目をゆっくりと開き、[子供達も風邪引いたの?]と的を射た問いを投げかける。
『みたい……。疲れてたのかな、二人とも』
「……熱は?」
『解んない。でも結構高そうだから、もしかしたら38度以上あるかも……』
「……新羅の、所、行こうか」
臨也はしばらく考えるような顔でゆっくりと近付いていくと自分も熱が高い筈なのにそれを感じさせない表情で携帯電話を取り出した。
「―――……繋がらない」
耳に携帯電話を当て、電話しているようだが、電話口からは[お留守番電話センターに―――]というガイドセンターに繋がり、目的の人物に繋がらないようだ。
『どうしよう……』
「母親の、君が狼狽(ウロタ)えて、どうするんだい。……まずは熱を測ろうか」
『……うん』
[医者に繋がらない]という結果に私は大きな不安が湧き上がり、子供達の苦しそうな顔を見つめつつ、呟くと臨也は元気付けるかのようにテキパキと指示する。
しかし、臨也も考えている以上に悪いようでそれだけを口に出すと、ベットの横で頭を預けるようにして荒い息を吐き出しており、既に限界も近いようだ。
そんな彼に体温計を頼むわけにもいかないので私は階段を下りて救急箱から体温計を取り出し、もう一度子供達の部屋まで戻る。
今日は階段を下りたり上ったりする日だな、と余計な事を考えながら。
『まずは筑紫からお熱測ろうね。ちょっと我慢できるかな?』
「あぅー……ママぁ……!」
『大丈夫大丈夫、ママもパパもずっと二人の傍に居るからね』
ゆっくりと頭を横に動かす筑紫にホッとしつつ、脇に体温計を入れると姉は服の袖を握ってくるので私は抱っこするような形で姉を自分の胸の中に埋める。
「……どう?」
『……うーん……38.5度……高いね』
数秒後、部屋内に電子音が流れ、筑紫をゆっくりと寝かしつつ、体温計を抜き取ると数字は無機質のまま表示されている。