折原家

□風邪を引いたあの人
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<風邪を引いたあの人>


4月下旬 朝 臨也のマンション

愛子視点


『……ん……っ』


朝目を覚まし、ゆっくりと伸びをしているといつも元気に扉を叩いては呼びに来る子供達が来ない事に気付き、キョロキョロとしていると、どこからか小さなくしゃみが聞こえた。


―――?


『……臨也?』


同じ時間かもうちょっと早く起きる筈の臨也も隣で布団を被って寝ているし、もしかしたら徹夜で起きていて今やっと寝た所なのかもしれない。

それならば起こさない方がいいだろう、と判断し、私は呼びに来ない子供達の部屋に向かおうとするともう一度小さなくしゃみが部屋の中に響き渡る。


『臨也?どうしたの?』

「……、愛子……」


私と臨也しかいない部屋の中で、自分以外のくしゃみが聞こえたとなれば一つだけだろう。

くしゃみを繰り返しているであろう臨也の方の布団をめくり上げれば、真っ赤な顔をして少しだけ苦しそうな彼が見えてきた。


「風邪……引いた、みたい……」

『……無理してるからだよ』


いつもの声とは全く違うガラガラの声に私は大きな溜息を吐き出し、軽く臨也の頭を撫で[今日一日休んでて]と言うと彼は頭を軽く振って否定する。


『体調悪いんでしょ?なら寝てないと』

「これ……ぐらい、平気、だよ」


そう言いつつ、臨也はゆっくりと起き上がると壁際に手を付いてフラフラと扉に向かって歩き出した。部屋の入り口で小さく咳き込んでいる姿は余程辛いのだろう。

今にでも倒れそうな彼に慌てて私は支えるように階段を下り、ソファまで連れて行くと静かに降ろして子供達の部屋までもう一度階段を上った。


『筑紫ー、紫苑ー朝だよー?』


真っ暗の部屋の中、扉を開けた光だけが中の様子を照らし出し、きちんとカーテンを閉めたり開けたりしている双子に偉いなぁ、と思ったのは内緒だ。

一向に返事がないので私はカーテンを開けに行く為、中に入るとベットの方から小さな呻き声が聞こえてくる。


『?どうしたの、二人とも』

「ま、ママぁ……っ」

「うぅー……ひっく……っ」


カーテンを開けつつ、そちらに目線を向けると起きたらしい双子が目に涙を溜めて私を呼んでいる。

慌ててそちらに向かって背中を摩ればどこか熱を持っているかのように熱く、もしかしたら―――そんな不安が頭をよぎり、二人の額に手を当てると案の定熱があるようだ。


―――親子仲良く風邪引くって……。

―――仲が良いっていうのか何て言うのか……。


丁度臨也も風邪を引き、下でぐったりとソファで寝ている姿がすぐに頭に浮かんできて溜息を吐きたくなった。

だが、臨也とは違うのは双子は彼のように起きる事ができないようで、身体や頭が痛いのだろう[いたいいたい]と涙目で訴えてくる。
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