折原家

□春の出来事
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<春の出来事>


新宿 4月上旬 臨也のマンション

愛子視点


「最近暖かくなってきたねぇ」

『そうだね。日も長くなったから遊ぶ時間も長くなったって嬉しそうだったよ?』

「……俺としてはあまり嬉しくない事なんだけど」


子供達が保育園に行っている間、私と臨也はコーヒーを飲みつつ、一息ついていた。といっても臨也は携帯電話を片手に、カチカチと何かを操作しながら、だが。

日の光がビルに反射し、キラキラと輝いて見える、というより少し明るくて眩しいぐらいなのでブラインドを閉めているが、

その隙間からは温かな春の日差しが入り込み、下から覗く人間達は薄着で出歩いている。夜は反面、肌寒く感じ、まだ暖房を入れなければいけないが、それでも冬のそれよりはマシな方だ。


―――外、温かそうだなぁ。

―――こんな日はどこかに出掛ける、なんて……。

―――できるわけないよね……。


「……もうこんな時間か。日が長いっていうのも考えものだね」

『え……ああ、本当だ。もうこんな時間なんだ。そろそろ子供達を迎えに行かないと』


臨也は携帯電話の画面で時間を確認しつつ、呟くと私もそれに釣られて時計に目線を向けると[14時28分]と表示されている。

子供達の迎えは15時なのでもう少し経ったらここを出なければいけない。本当に日が長くなったんだなと考えつつ、コーヒーカップを二つ下げる為、立ち上がると―――


「ねえ、愛子」


と携帯を持っていない手で私の腕を握り、立ち上がるのを阻止する臨也。それに[?]と頭を傾けると彼は何かを思いついたかのように笑みを深くする。


「お花見行かない?家族4人でさ」

『……どうしたの?突然』

「意味はないよ。ただ、そろそろ桜が満開になる時期だろう?今の気温なら温かいし、外で遊ぶには十分だと思うんだけど、どうかな?」


そう言われればそうかもしれない。

4月と言えば入学式や始業式など始まりの月であり、新しく環境が変わる事が多い時期だ。


それに筑紫と紫苑も一つ上の学年になり、お兄さんやお姉さんと呼ばれる年になった。

1年というのはあっという間だな―――なんて年甲斐もなく考えていると臨也は[どう?]と再度問いかけてきた。


『いいと思うよ?二人もきっと喜ぶだろうし……。私も丁度、外に出掛けられたらいいなって思ってたから』

「でも、これには一つ問題があるんだよねぇ」

『?問題?』

「そう、問題。俺としては池袋でお花見したい所なんだけどあそこにはシズちゃんがいるだろう?もし、バッタリ会ったりしたらせっかくの楽しい時間が奪われるかもしれない。

それだけは避けたいから、そうなると新宿の方になるんだけど……愛子は新宿と池袋、どっちでお花見したい?」


会わなければいいんじゃないのか―――そう思ったが、静雄さんが臨也を見つける確率は100%に近い。

私としては静雄さんに会って子供達の相手をしてもらいたいと思うし、子供達もきっと彼に会う事を楽しみにしているだろう。


だが、臨也はそれを許さず、会いたくない。

だけど子供達が、私がそういうならば仕方がない―――とばかりに問いかけてくる。

一つしかない答えに私はどうやって答えればいいというのだ。
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