折原家
□ひな祭り
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「お雛様とお内裏様っていうのはね、実際には女雛と男雛っていうんだよ?」
『何それ……』
知らない事に訝しげに彼を見れば、臨也は得意げな表情でコーヒーカップをソーサーに置き、語り出す。
「男雛、女雛は親王って言うんだけど、それぞれ皇后と天皇を、三人官女は宮中に仕(ツカ)える女官、五人囃子(バヤシ)は能のお囃子(ハヤシ)を奏でる5人の楽人を表してるんだよ?」
『…………』
何でそんな事まで知っているのだ。
そう問いかけたかったが、長くなりそうなので[そうなんだ]と納得したように口を開けば、
彼はまだ言い足りないようで雛人形の起源から話し出そうとするので、慌てて止めると臨也は口元を吊り上げ、もういいのかい?とでも言いたそうだ。
「おひなしゃまー!」
「おだいりしゃまかざるー!」
『二人にはそれが合ってるみたいだよ?』
「……いいんじゃないかな。知ってる人間なんてそうそういないだろうし、ひな祭りをやってる家自体少なくなってきてるだろうからねぇ」
双子の子供にとって、雛人形の起源やお雛様やお内裏様の本当の名前なんてどうでもいいようだ。
私もそこまで雛人形が好きなわけでもないし、知りたいわけでもないので二人に止めてもらってホッとしている所だった。
『それで、臨也の家でやってたの?ひな祭り』
「……君が俺の家の事を知って、質問してると仮定して話をしようか」
『……ごめんなさい』
初めの所で私は折れた。
臨也の両親が海外に行ってしまっていて、滅多に帰ってこない事なんて最初から知っている事じゃないか。
臨也が進んでひな祭りをやるとは思えないし、妹達が彼を巻き込んでまでやるとも思えなかったが、あの二人ならやりかねないと思うのは私だけだろうか。
―――臨也をお内裏様だ、って遊んでそう……。
臨也は人間で遊んでいるが、二人は兄である臨也で遊んでいそうなイメージが私にはあったので、クス、と小さく笑みを溢すと彼は不満げな表情で[何?]とこちらに目線を向けた。
「……それで、そのお内裏様とお雛様を飾るつもりかい?」
「かざるー!」
「ぼくもかざりたいっ!」
「…………」
『何か不満なの?』
二人に問いかければ双子は元気よく手を上げるように答え、その答えに臨也はどこか嫌そうな顔をしていた。
「不満、ってわけじゃないさ。買いたいなら買っても良いし、飾るのなら飾ればいいよ?でもね、その飾った後はどうするんだい?」
『……飾った後?』
どういう意味なのだろう―――と言葉の意味が解らなくて首を傾げると、臨也は身体をソファに預け、リラックスした状態で口を開いた。