折原家
□ひな祭り
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<ひな祭り>
新宿 某大型スーパー
愛子視点
≪あかりをつけましょ ぼんぼりにーお花をあげましょ 桃の花ー♪≫
そんな曲がピンク色に飾られた花やお菓子、ちらし寿司の材料などと一緒に流れていた。
もうそんな季節なのか―――そう思わずにはいられないぐらい、何度も何度も同じ曲が流れている。
「ママーひなまちゅり、っておひなしゃまかざるんでしょー?」
「おひなしゃまかざりたい!」
子供達がとてとてと小さな足を一生懸命動かし、自分の欲しいお菓子と共に駆けてきた。
保育園では折り紙でお雛様やお内裏(ダイリ)様を折ったりしたようでもうすぐ何の日か知っているようだ。
『紫苑は男の子でしょ?ひな祭りは女の子の行事なんだよ?』
確か聞いた話によるとひな祭りは女の子のすこやかな成長を祈る行事だと聞いた事がある。それならば男の子は?という話になるが、5月5日に端午の節句というものがある。
5月5日は男の子の出世を願い、鯉を家庭の庭先に飾られる事が多かったが、今この東京で飾っている人間なんて本当に少ない気がする。
いたとしても小さな鯉だけで、本当に大きな鯉はいなくなってしまったようだ。
「いやーっ!ぼくもおひなしゃまとおだいりしゃまかざるー!」
「だーめっ!あたしとママだけー!」
「ずるいよぉ!ママだけぇ!」
「べーっだ!」
段々と喧嘩する勢いの双子に私は溜息を吐き、[はいはい、喧嘩しないの]とだけ言うと二人は顔を膨らませ、何か言いたげだ。
それでも私はそのまま二人の頭を撫で、宥めるようにするとようやく双子は落ち着いてきたのか渋々仲良く手を繋いでいるようだ。
―――ひな祭りなんて、飾った事なかったなぁ……。
臨也の家ではあったのだろうか。
帰ったら聞いてみよう―――そう思い、今日の晩御飯、明日のお昼御飯などを買うと二人を連れ、レジに並んだ。
「あたしのおかし、いいでしょー」
「ぼくのおかしのほうがいいもんっ!」
店員さんが[どうぞ]と丁寧にシールを張り、渡してくれたのだが、二人は同じお菓子を巡り、喧嘩しているのだ。どっちも同じお菓子なので二人の喧嘩の原因が解らない。
店員も困惑した表情で二人を見ており、私も[すみません]と謝りつつ、財布を取り出す。
『喧嘩するならひな祭りやらないよ?』
「やっ!やだっ!やーだーっ!」
「やだやだーっ!ごめんなさいしゅるからーっ!」
今の二人にとってはひな祭り、という行事が一番やりたい事らしい。一言溜息を吐きながら呟けば、すぐに二人は首を振って喧嘩を止める。
≪お内裏様と お雛様ー二人並んで すまし顔ーお嫁にいらした姉様に よく似た官女の白い顔ー♪≫
――――――……
新宿 臨也のマンション
愛子視点
「ひな祭り?……ああ、もうそんな季節か」
『臨也の家で飾ってた?お雛様とお内裏様』
帰った後、臨也に唐突に聞いてみると彼は一瞬何の事なのか解らなかったらしく、眉を顰めたが、
すぐに[ひな祭り]というものを思い出したらしく、コーヒーに口づけながら懐かしむように言葉を吐き出した。