折原家
□君への贈り物
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注意書き
偽名は[奥川]で統一させていただきます。
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〈君への贈り物〉
6月19日 朝 某高級マンション
愛子視点
「とーと!きょうは、いちにちいっちょ?」
「パパ!きょうは、いちにちいっちょだよねー!」
「…………」
朝早くに目が覚めた双子は忙しそうに動き回る臨也の足を逃がさないように掴み、満面の笑みで問いかけている。
それにも答えられない程に忙しいのか、ズルズルと二人の子供を引きずりながら歩く臨也。私は何だかその光景に笑ってしまい、一人、掃除機をかけながら小さく笑っていた。
「いっちょー!とーといっちょ!なにしてあそぶ?でんしゃごっこ?かくれんぼ?」
「だーめ!パパはあたしと、おままごととおにんぎょうしゃんであそぶの!」
「ずるいよぉ!筑紫ばっかりぃ!」
「紫苑だってきのう、パパといっぱいあそんだでしょー!」
「あれはあれだよ!きょうは、とーととかくれんぼであそぶの!それに筑紫だってとーととおままごとしたー!」
引きずられている事にも屈しないのか、二人は臨也の足元でキャッキャ、キャッキャと騒ぎながら喧嘩を繰り返していた。
それでも臨也は無言でパソコンと携帯を器用に操作しながら仕事を続けている。
どれだけ気が長い人でも足元で喧嘩を続けられては気が散って仕方が無いと思うのだが、臨也はそれを我慢しているのか、何も言わない。
―――怒ってもいいと思うんだけど……。
流石にこの状況を放っておくわけにはいかないので私は二人に注意するのだが―――
「いーや!きょうは、パパといちにちいっちょなのっ!」
「そうだよ!きょうだけ、いちにちいっちょっ!」
『…………?』
どうしてこれまで程までに、いつもは我慢しているであろう親子の触れ合いをしようとしているのか解らなかった私だったが、紫苑の言葉で理解する。
「きょうは、とーとのひだよ!とーとのひはとーとといっぱいあそぶひだってせんせい、いってた!」
[とーとの日]という紫苑特有の臨也の呼び方に何の日か解らなかったが、すぐに今日が[父の日]だという事を理解し、頷きつつ、[父の日]というものはどういうものなのか問いかける。
『[父の日]ってどういう事をするの?』
「えーとね、せんせいが、パパといつもあそべないこも、きょうだけはあそんでいいっていってたもん!だから、きょうはパパといっぱいあそぶの!」
それでこんなにも二人は―――そう思うと二人に注意する事を躊躇ってしまった。しかし、臨也には仕事があり、見るからに忙しそうだ。
『臨也、少しぐらい遊んであげれば?』
「ごめんね、今日だけは本当に悪いと思ってるよ。でも今日だけはどうしても外せないんだよねぇ。だからさ、適当に三人でご飯でも食べに行っておいで」
そういうと臨也は財布から何枚かのお札を出すと、いつものファー付きのコートを着て足早に出て行ってしまった。最後に私達に最大級の優しい笑みを向けて。
「…………」
「…………」
『……仕方ないよ。パパ、お仕事なんだから……』
双子は今にでも泣きそうな顔で私に走り寄ってきて、グリグリと乱暴に頭を押しつけた。
どうにかしてあげたい事だが、臨也が言うにはどうしても外せない仕事、らしい。そうなれば私ができる事など何もない。