折原家
□節分
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「ちょ……」
何かを言おうとする臨也だったが、双子の前ではそれさえも無意味であり、逃げる旦那に追う子供。
それはまさしく、鬼と追い払う人間。
二人は[鬼はー外!福はー内!]と元気に臨也に向かって豆を投げており、それを避けながらも何粒かは当たっているようだ。
痛くはなさそうだが、何だか悔しい。臨也も息の合った二人に翻弄されているようだ。
「愛子も見てないで助けてくれたっていいんじゃないかな?」
『そう言われても……』
台所の方まで逃げ、隠れる臨也に助けを求められるが、私の方には最初の頃に当たったぐらいでそれ以降は全て旦那に集中攻撃されている。
鬼のお面を被りながら親子三人の豆まき風景を見ているような感覚であり、今更当たりに行くのも嫌なので見守っているような状況だ。
「とーと、みーつけたっ!とーとはーそと!ママはーうち!」
「パパ、みっけ!パパはそと!ママはうち!」
「ちょ、え?俺って外に行かなきゃいけないの?」
探していたであろう双子は臨也を見つけ、楽しそうな表情で豆を容赦なく鬼に当てる。
最初の頃は臨也も楽しそうにやっていた豆まきだったが、双子に[外]と言われ、最後には泣きそうになりながら逃げ回っていた。
そんな臨也に流石に可哀想になってきたので、二人に注意をするが全く聞いてもらえない。
いつもならここで諦める臨也だったが、それでは父親の顔が立たないので少し真剣な表情で二人に向き直る。
「あのねぇ……筑紫、紫苑。いつもは二人が楽しくしてくれればそれでいいから何も言わないけど、俺だって父親だよ?
愛子との扱いの差が酷くないかい?もう少しぐらい加減ってものをさぁ」
その声に二人は豆を撒くのをやめ、紫苑は俯き、筑紫はしょんぼりした顔で小さく呟く。
「だって、だって……!パパ、いつもあそんでくれないから……っ!だ、だから……いっぱいあそんでほしくて……っ!ごめんなさい」
「……ごめんなさい」
「パパ、いたいいたい……?」
「いたいいたいの、ぼく、なおしてあげる!」
「筑紫、紫苑……」
最近はずっと臨也の仕事が忙しく中々二人は遊んでもらえず、会う時間も遊ぶ時間も限られてしまう。反対に私は殆どの時間を二人と過ごし、保育園に行ってるぐらいしか離れない。
臨也と遊ぶ時間が限られているのなら、その限られた時間でたくさん遊びたい―――という事なのだろう。
二人の言葉に臨也は優しく微笑むと二人に近付き、抱きしめる。その微笑ましい光景に何だか涙が流れ、拭っていると旦那に名前を呼ばれた。
「愛子も寂しかったのかい?」
『そ、そういうわけじゃ……』
確かに臨也と居られる時間がなくて寂しくないと言えば嘘になる。
だけど、私が甘えていては二人に申し訳ないので何も言わなかったが―――本音では臨也にずっと抱きしめて欲しかった。[愛してる]と囁いて欲しかった。