折原家
□節分
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そう思うと何だか申し訳ないのだが、臨也はそれに苦笑しつつも筑紫が作ったお面を被る。
筑紫が作ったお面は角が二つ付いており、もともとの絵は描かれていたらしく、それにそれぞれ好きな色を塗ったものだった。
角は青、鬼のお面は水色と赤と黄色で色鮮やかに塗られている。
臨也が被らなかった紫苑のお面は筑紫と同じ鬼のお面だったが、角は茶色、顔はもともと無かったものが追加されていて、
クリクリの眼にはもう一つ円が、牙が生えた口には灰色で描いたであろう雲が描いてあり、色は紫だ。
「とーと!ぼくのつくったおめんしゃんもかぶってー!」
「あたしのおめんしゃんだけだもんねー!」
二つあるお面を一人の人間が被れる筈もなく。
やはり喧嘩になりそうになるのを臨也はやれやれ、と小さく息を吐き、立ち上がった。
「交代で被るから喧嘩しないの。まずは筑紫のお面からね?」
「うー……」
『パパ、ちゃんと被るって言ってるから我慢しようね』
いじけて泣きそうになっている紫苑は俯きながら涙を我慢するかのように唇を強く噛んでおり、それを見た筑紫は手に力を込めて臨也が持っているお面を奪った。
それに驚き、筑紫の顔を見ると涙を溜めながら一生懸命口を開く。
「お、おめんしゃん……っ、紫苑の、おめんしゃんかぶって、いいよ……。あたし、が、がまんしゅる……っ!」
「…………」
『筑紫……』
思わぬ所で筑紫の姉らしさを見たような気がして少しずつではあるが成長しているんだな、と改めて実感する事となった。
そんな筑紫に紫苑は眼をパチパチさせながら驚いているらしく、数秒後には姉に抱きつき、涙を我慢するかのように小さな声で言葉を吐き出す。
「ぼ、ぼくが、がまんするから……っ!筑紫のおめんしゃんかぶって!」
「ううん!あたしががまんするっ!」
「ぼく!」
「あたし!」
『……それじゃあ、私も鬼やるから紫苑のお面は私が被るよ』
これでは埒が明かないので名乗りをあげると、二人は渋々ながらに了承してくれ、紫苑のお面は臨也の手によって私に渡された。
僅かにクレヨンと画用紙の匂いがする。子供が書いた――― 一つのコレクション。いつかはきちんと、はみ出さずに綺麗にぬりえができるようになるのだろう。
鬼の面や子供が書いた絵はずっと、時間が止まっている。子供は成長し、大きくなるのにコレクションだけはその時の思い出を残しておいてくれるのだ。
―――少しだけ、寂しい……。
―――――――……
「いざ当てられると思うとやっぱりちょっと覚悟しちゃうよね。それにさ、鬼役の俺達は何をすればいいのかな?」
『……何すればいいんだろ』
二人のお面を被った私達はどうすればいいのか解らず、一応書類など必要な物や無くなってはいけないものなどを片付け、
部屋を広くすると元々大きなマンションだったのが、もっと大きく見え、何だか新鮮な気分だった。
大掃除ぐらいにしか物を片付けたりしないので、やはり新鮮に見えてしまうのだろうか。二人は折り紙で作った箱の中にこれから投げる豆を入れ、準備万端という表情をしている。
「パパたちはおにしゃんだから、にげなきゃダメなんだよ!」
『逃げればいい、って事かな……?』
「みたいだねぇ……」
筑紫の説明に私達は納得し、逃げる準備をしていると突然背中に何かが当たる衝撃を受けた。
振り返ると豆を持った紫苑が、父親譲りの笑みを浮かべ、楽しそうな表情で言葉を紡ぐ。
「へへーん!つぎはとーとのばんだよ!」
「……そう言われて、当たる俺じゃないよ」
臨也もやる気満々らしく、紫苑が投げた豆を綺麗に避けるが、それを読んでいたかのように筑紫が豆を投げつける。
「…………っ」
見事その豆は臨也の足に当たり、双子はしてやったり、という表情でピースしている。それが悔しかったらしく、臨也は筑紫に向かって走るが、紫苑が腕に当てた。