折原家
□節分
1ページ/4ページ
〈節分〉
某スーパー内
愛子視点
2月3日。
それは厄除けとして豆を撒き、鬼を追い払う風習である―――節分の日だ。
この時期になると色々な所で豆まきの豆を売っていたり、恵方巻きの予約の受付などをやっているスーパーなどが増えてくる。
筑紫と紫苑を保育園から迎えに行った後、スーパーに寄って今晩のおかずの材料をカゴの中に入れていると、紫苑が紙製でできた袋を持って私の所にやってくる。
いつも買ってほしいものはこうやって持ってくる為、今日もまたその袋が欲しいんだな、程度にしか考えていなかった。
「ママー!きょうは、まめまくひだよー!」
『豆を撒く日……?』
一瞬何の事だろうと思ったのだが、その手に持っているものを見て、今日が[節分の日]だという事を理解した。
後に遅れてやってきたのは紫苑の姉である筑紫であり、紫苑もまた同じ袋を持って私の元にやってくる。
それを何の躊躇いも無く私が持っているカゴの中に入れ、嬉しそうな表情で言葉を紡ぐ。
「パパとあたしとママでまめ、まこうね!おにしゃんいなくなったら、パパとママ、うれしー?」
『嬉しいよ。でも紫苑と筑紫が喧嘩しないで良い子にしてた方がもっと嬉しいかな』
確かに鬼だと言われる病気や怪我がなくなってくれれば嬉しい、だが、それ以上に二人が仲良くいてくれた方がもっと嬉しいのだ。
それでも、健康が一番だ、という事には変わりはないのだが。だが、二人は豆を撒きたいのか私の言葉なんて聞いていないかのように、二袋ずつカゴの中に入れた。
「でも、せんせいがおにしゃんいなくならないとダメだっていってた!」
「うん!だから、おにしゃん、ぼくと筑紫でおいはらってあげる!」
『ありがとう。でも、こんなにいらないよ?』
たくさん豆を撒くのはいいのだが、後の掃除が大変なので一袋で良かったのだが、返してくる気配がないので、少なめにするように二人に伝え、レジに向かった。
―――――――……
新宿 某高級マンション
「パパー!まめかってきたー!」
「きたー!」
二人は買った豆を早く父親である臨也に見せたいのか、レジを通すと四袋もある豆まきの豆を大事そうに抱え、結局家に帰ってくるまで離す事はなかった。
バタバタと袋を持った二人は靴を脱ぎ捨て、足早に臨也がいるであろう中に入っていき、それに溜息を吐きながら、靴を直し、中に入っていく。
こういう事もいつかは教えなければ―――そう思うのだが、早めの方がいいのか遅くても身に付くのか、いまいち解らない。
「おかえり、愛子」
『ただいま、臨也』
私が中に入る頃には臨也は二人に抱きつかれており、臨也も苦しそうな表情をしているが双子に懐かれ、嬉しそうだ。
「パパー!まめまこっ!おにしゃんいなくなれーってやらなきゃいけないんだよ!」
「とーと!まめまくひ!まめまくひ!」
「……?ああ、今日は節分だったねぇ。すっかり忘れてたよ」
二人の言葉に臨也も流石に解らなかったらしく、少し考える仕草をしていたが、そこはやはり臨也だ。すぐに二人の言葉を理解し、納得した表情で双子の頭を撫でる。
「はやくはやく!とーとがおにしゃんね!」
「鬼って……。まあいいけど」
保育園でも既に豆まきをやったらしく、すぐに二人は鞄から自作の鬼のお面を取り出し、臨也に渡した。
それを見ながら、[こんな色も塗れるようになったんだねぇ]と自分の子供の成長を嬉しそうな表情で呟いている半面、
自分がこのお面を付けなければいけない―――と思うと臨也の心境は複雑なものなのだろう。
[新宿の折原臨也]という名で情報屋としても、色々な人間から知られており、恐れられている。
そんな彼が今では我が子のお面を被っている、どこにでもいるような父親だ。