短編
□君が観に来てくれるから
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「もうすぐ夏だね、」
5月には暑すぎる、25度。
じりじりと昼に肌を焼いていた太陽も寝る準備をし始めて、オレンジ色に染まっていた。
グラウンドと校舎を隔てる緑色の網を間に、
俺と彼女は世間話。
もちろん部活はとっくに終わっているのだけれど、何故か去るのが名残惜しくて、足を止めたのだ。
「ああ、もう暑いしな」
驚いた。さっきまで俺が思ってたことを口にするから。
もう夏だね、そういった彼女の表情は、眩しいものを見るかのように細められている。
「早いね、大会始まっちゃうよ」
はあ、とため息をついた彼女。
そういえば、彼女が所属している吹奏楽部も大会だったか。
「一年間で、もっとできたことあったと思うんだけどな」
「一日過ぎんの早いんだよな。この調子でいくと来年もこんな話、してんのかな」
そうかも、言って、彼女はおかしそうに笑った。
「あ、今年は2年生も野球の試合、応援に行くんだよ」
ずっと行きたかったからね、楽しそうに言う彼女の肩には、
黒い楽器のケースがかけられている。
「まじでか、じゃあ頑張らないとな」
「御幸君は前にランナーいないと打ってくれないって倉持君が嘆いてたよ」
「最近あいつが調子いいだけだろ。普段は俺のほうが打率良いし」
ふうん、そうなんだ、口を尖らせて熱心に聴きのがさまいと網に手をかける彼女。
「まあ、今度の試合は大丈夫です」
「え、なんかあるの」
君が観に来てくれるから
他のやつなんて見えないくらい、
かっこいい所見せないとね
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