短編なり。

□とある一日
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「よぉ!兄ちゃん。ちょっと頼みがあるんだけどよぉ?」

 突然、声を掛けてきたのは、身長が2mはあろうかと言う、いかつい鍛冶屋のおっちゃん。先日宿の酒場で偶然出会い、話をしたのが知り合ったきっかけだ。

「何のようだ?夕方には隣町に行く予定なんだけど。」

 ちょっとめんどくさそうに答えるとそれを察したかのようにおっちゃんはこう言う。

「そんな、邪険に扱うなよ、そんなに時間はとらせないからよぉ。」

「わかったよ、んで?何の用事?」

 やれやれと言った感じで答えると、おっちゃんはやや鋭い目つきで言い放った。

「ちょっと新作の剣の試し切りをしたいんだけどよぉ・・・兄ちゃん相手になってくれよ、兄ちゃん強そうだしな。」

「は?」

 驚いて半分裏返ったような声を思わず出してしまったが、そんなことも気にせず、おっちゃんはもうやる気満々の様子だ。

(こりゃ、めんどくさいのにつかまったなぁ。)

「ささ、気が変わられると困るからな、作業場の裏の広場に来てくれ。」

「はいはい。そんなにせかすなよ。」

 ため息混じりにおっちゃんの後ろを着いて行き、作業場を抜けると、意外と広い敷地がひろがっていた。

(まあ、適当に相手をしてとっとと終わらせるか。)

「んじゃ、よろしく頼むよ、兄ちゃん!」

 言いながら、おっちゃんは自分の背丈もあろうかと言う、刀身の長い剣を構える。

「おいおい、何その規格外なサイズは・・・」

 通常、常人が振るう剣は、7・80pと相場が決まっている。無論、俺の持っているのもそれくらいの長さだ。あれほど長いものを扱うには、かなりの筋力と剣士としての技量が必要だ。

「まずは、ウォーミングアップ程度で・・・いくぜぇ!」

 おっちゃんは剣を地面と水平に倒し、左脇に絞り込むように柄を構え、腰を落とした。

(ん?ただの鍛冶屋じゃない!)

 と過ぎった刹那、油断していた、これははっきりと言える、予想外だった。10m程離れた位置から、おっちゃんは一気に間合いを詰めて来た。

「おらぁ!」

 冷たい輝きが右の頬の横を通り過ぎる、スピード、キレ、申し分ない突き。避けられたのは経験だと言えるのか、背筋に冷たいものが走った。瞬間、こちらも戦闘モードに頭を切り替える。

(遊びでやるわけじゃぁ無さそうだな、こりゃ。)

 突き終わり、かなりの隙が出来る、しかし油断をしていた為、機会を逃しおっちゃんに距離を取られてしまった。

(情けない、普段なら今ので終わらせるんだがな・・・)

 反省しながら、剣を抜き構える。

「もういっちょぉ!」

 最初と同じくらいの距離から、まっすぐに突っ込んでくる

(な、さっきより早っ!)

 慌てて避ける、今度は反撃も入れる。そのための態勢を整えた、

「おらぁ!」

 想定内、おっちゃんもかわされるのを想定し、突きの勢いに合わせ、そのまま膝蹴り。

(よし!)

咄嗟に両肘を絞り込みガードをする。

ガシィィィ!

「なに!」

 おっちゃんはそのまま俺を吹っ飛ばそうと思ったのだろうけど、残念。きっちり受け止める。そして、

ドンッッッ!!!

「うげっ!」

 受け止められ、態勢の崩れたおっちゃんのわき腹に左ひざ蹴り。

「おっちゃん、それじゃあ切れ味わかんないよ?」

 距離を取り、剣を構え直して言ってやる。

「げほっ、だよなぁ。」

 左脇を押さえながら立ち上がり、再度おっちゃんは構え直す、相変わらずの突きの姿勢。

「さて、もういっちょ。」

 グッと腰を落とし、愚直な突進。

(ん、終わりにしようか。)

キィィィィィィン!

ドサッ

「んじゃ、おっちゃん。またな。」

 剣を収め、俺はその作業場をあとにした。

 え?何があったかって?

 真っ直ぐ突っ込んでくるおっちゃんの突きをぎりぎりでかわして、突き終わりの伸びきった剣を根元からぽっきり切り落としただけ。

 切れ味だけなら俺の剣の方が上だったってことかな?

 さて、一休みして、隣町に向かうとしますか。


 

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