短編なり。
□うざい・・・
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「うざい・・・」
思わず口に出してしまった言葉・・・長旅でようやくたどり着いた宿の食堂で夕食をとっていた私に絡む、酔っ払いの親父A。周りには他に客も居たが、やれやれまたか、といった風に、こちらには関わりませんという空気をかもし出していた。どうやら常連客のよくある風景のようだ。
「お嬢ちゃん、今なんて言った?」
上機嫌だった酔っ払い親父Aの表情が変わる。右目の下あたりをヒクヒク痙攣させ、左目の眉毛がつりあがっている。
(やれやれ・・・、うざいわ・・・ほんと・・・)
酔っ払いの相手は面倒なのと、長旅の疲れで若干ご機嫌斜めの私は、軽く親父Aの言葉を無視して、食事を続けた。
「お嬢ちゃん・・・聞こえてないのかなぁ?」
親父Aの表情はさらに崩れ、顔は赤らみ、いかにも怒っています。という表情へと変わった。周りの野次馬も、この先どうなるのか気になるのであろう、こちらに目線を送る頻度が増えている。
「・・・モグモグ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・モグモグ・・・ゴクゴク・・・。」
しばしの沈黙が流れ、私の食事は順調に進む。親父Aは完全に硬直。いや、若干震えているように見える。怒り心頭・・・といったところだろうか。
「てめぇ!女だからって、なめてんじゃねぇぞ!」
酔っ払い特有の、意味が通っていそうで、よく聞くと内容が滅茶苦茶なパターンのセリフを大声で怒鳴りつけ、食堂のテーブルに八つ当たり。周りの客は横目でチラチラ見てはいるものの、相変わらずの知らぬ振り。
バアァァァァァァン!!!ガシャン!
テーブルを平手で思い切り叩きつけ、我慢ならん!っと言った感じで、私に掴みかかろうと、私に一歩歩み寄る。
・・・・・・・・・・・プチッ!
お気づきの方もいらっしゃいますでしょうが、テーブルの上の私の食事は、小さな擬音と共に、無残にもテーブルの上でひっくり返り、もう手は付けられない有様。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
さらにおわかりでしょうが、食事の邪魔をされた挙句、食事そのものも台無しにされた私は、長旅の疲れのせいもあり(あまり関係ないかも知れないが)、怒りがこみ上げる。
「いつまでシカトしてんだ、このアマ!」
うつむき押し黙ってる私を見て、ガン無視されていると勘違いした親父Aは、次の一言で、ついに私の堪忍袋の緒を切った。
「聞いてんのかぁ!このチビ!!!」
怒りの雄たけびと共に、私の腕を掴もうと、勢いよく、私に近づき手を伸ばす。残念無念、可哀想な親父A。
「うぉ!」
バタアアアァァァァァン!!!
軽く宙を舞い、床に転がる親父A。何が起きたのかわからないと言った表情がマヌケでちょっと笑える。
「あ、あれ?」
自分よりも一回り以上小さな女性に掴みかかろうとした、大の大人が、その女性の足元に大の字で倒れているなど、想像しようもないのであろう。周りの連中もさすがに驚いた表情を隠せない。
シーーーーーン
しばしの沈黙を切り裂くように、私は目の前にあった椅子を右足で思い切り踏みつけ、よくあるシーンの良くあるセリフで親父Aを上から覗き込むように睨み付けながら言い放つ!
「表へ出ろ!!!」