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その人を発見したのは、本当に偶然でしかなかった。
思わず、運命であると勘違いと錯覚と倒錯に陥ってしまいそうなほど。



「雁夜、先輩」
「……」



呆然と呼ぶ声に覇気はなかったけど、もし見間違いでなくて彼だとするのなら平生の彼とはまったく違う反応をしてきた。少し戸惑う。
いつもならこんな掠れて聞き取りにくい低い声さえ、いまと同じように触れられそうな距離の真後ろからなら、「ん?なんだい?」と笑って振り返ってくれた(振り返ってその近さに彼は少し動揺するのだけど)。

嫌に心臓が高鳴る。不安ではちきれそうだ。
だって冷たいコンクリートの壁と地面に寄りかかってうずくまる彼の年齢にしては華奢な肩が、うごい て   な、



「! か、雁夜先輩!大丈夫ですかっ俺の声、聞こえてますか!?」
「……っ、ハ、……ァ」
「雁、」



浅く息をする、昔と比べて色素のなくなった彼を横から支える。
酷く弱った細い、というよりは薄い体は、軽く触れただけで折れてしまいそうで。
よくこの状態で生きていられるものだと、驚きを通り越して感心した。

ああ、この人はきっとアレに巻き込まれたか、それとも直接関わってたのだろう。
重荷である体を無理に使役して、アレになにを願おうとしたのかわからないけど、私欲のために動き回る人じゃないとわかってるから、眉間にシワがよる。

両の手の甲に模様がないことを確認し、ついでに周囲を探ってここ数日感じていた気配がないことを知る。
ちょうど終わったのだろうと解釈し、俺は彼を持ち上げた。
あまり負担をかけたくないので、失礼と羞恥を承知しつつ横抱きにさせてもらう。

発見したのが自宅にほど近い路地裏でよかったと思いながら、暗い道を駆け抜けた。



ポーカーのティルトジョーカーは動揺する




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やっちまったな☆

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