□乙男、返事
1ページ/1ページ



いやいやちょいと待たれよカルスくん。


誰が誰を好きって?



02‐



前回のあらすじ。ほぼ初対面のイケメンに人生初の告白をされました。



「え、ちょ、」



状況が!状況が急展開すぎますぞ!
驚きすぎてずれたメガネを直す。さっきから傾いたりずれたりしてばっかだね!
前回のあらすじが直球すぎてアレだけど、そこは気にせず!いまは目の前の真っ赤なカルスくんをどうにかしないと!

深呼吸を何回もして目の前にいる彼を見る。
まるで恋する乙女のごとく、真っ赤に熟れたリンゴのような顔をして軽く俯いている。
肩をすぼめ、綺麗な前髪が顔に影を作る。
あぁ、綺麗だなぁと見惚れていると、チラチラと彼の視線が向けられる。

……へ、返事を期待しているのですね、わかります。

ううう……こ、断るのもなんかな……だからといって了承するのもなんか違うような……。



「緑川さん」
「は、はい」
「えと、いきなりでごめん。でもキミとすれ違うなんて奇跡みたいなもんだし……1人でいるって珍しかったし……」



いきなり顔が上げられて、名前を呼ばれた。
間抜けな返事をしてしまったけど、彼は気にしてないようだ。
両手の人差し指をくっつけてモジモジしている彼がなんだかかわいく思えてくる。

たしかにわたしは休み時間はいつも教室にいる。
そして周りにはいつも友人がちらほらといる。
移動教室の時や、たまに廊下を歩く時には必ずといっていいほど友人がそばにいる。
今日のように1人で廊下を歩くことなんて滅多にない。
ん?そんな事を知っている彼は、いつからわたしのことを知っていたんだろう?



「……それに俺もいつもそばに人がたくさんいるからさ、なかなか話しかけられなくて……」



自慢か。自分はかなりモテていますという自慢か。
じゃっかんイラァ……としたよ。

ん……あれ?イライラ、じゃ、な……い?

なんだろう、モヤモヤ……する?



「だから1人で廊下にいたのを見かけたときは、ビックリして壁にぶつかっちゃったんだよね」
「そ、それって大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」



どこぶつけたんだろう、と思いつつ心配になったので声をかける。
すると彼はとても嬉しそうに目を細めてふわりと笑った。
なんだかドキドキするけど、さっき走ったからだよね?まだ心臓が落ち着いてないからだよね?



「うん、そうだな。告白の返事はしなくていいよ。言えただけで満足」
「へ?」



いきなりの自己完結。
なんだか間抜けな返事しかしてないけど、でもそれほど驚いている。
目の前のカルスくんは、苦しそうに、笑っていた。

その顔を見て、わたしの胸も苦しくなる。



「だって俺たちほぼ初対面だし、俺はほんとに言えただけで満足してる。
 もしかしたら一生言えないかもとか思ってたしね。
 廊下で見かけたりするたびに、もうこれから見れないのかもしれないって思ったりもした。
 よく知らないヤツにいきなり告白されても困るよね。
 でもさ、奇跡みたいな今日にキミに告白できたこと、俺はとても嬉しいよ」



またニコリと笑う。

ただ、その笑顔は違和感があって、さっきの笑顔とは違っていて、寂しそうで、悲しそうで、苦しそうで、切なそうで、わたしは、



「……ねぇ、わたしは了承や断るしか選択肢がないの?」
「え……」



知らず知らずのうちに言葉が滑り出ていた。
カルスくんは鳩が豆鉄砲を食らったように呆けた顔になった。
なんだか今日はカルスくんの言う通り、ほんとに奇跡みたいな一日だな。
遠くから見ていた有名人のカルスくんじゃないみたいだよ。

あらためて見たカルスくんの一面は、とても新鮮で、中学生の男の子らしいものだった。だから、



「たしかにわたしたちは廊下ですれ違ったりとか、友達の話に出てきたりする事しかお互いに知らないと思う。
 でもわたし、いまだけでいろんなカルスくんを知れたと思うの。
 だからさ……こうやって、これから、いろんなカルスくんを知ればいいと思う……。
 そしたらわたし……カルスくんのことたくさん知って、好きになるかもしれないよ。
 カルスくんもわたしのことたくさん知って、それでも好きなら……その、また……いつでもいいので告白してください」



言ってる途中からかなり恥ずかしくなって顔から火が出るかと思った。
最後のほうは早口になってしまい、彼が聞き取れたかどうかはわからない。
それに言い終わったら正面の顔が見れなくてすぐに俯いてしまったし。



「……ね、さっきのほんと?」
「う、ん」
「期待してもいいってこと?」
「お好きに、どうぞ」
「……ありがとう、緑川さん」



俯きながら受け答えしていたけど、最後の言葉に自然と顔を上げた。

そこには、嬉しそうに、どこかホッとしたように微笑むカルスくんがいた。


また、胸が高鳴った。





もしかしたら、すでに恋に落ちているかもしれない


-----------
アーッもどかしい!偽者すぎる!もどかしい!

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ