□寂しい、だからサヨナラ
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Dホイールをいじる音を耳で拾い、こちらに背を向けている遊星に話しかける。
ゆっくり、のんびり近づきながら。



「遊星はさ、あんまし喋んないよね」

「そうだな」

「蟹のクセに生意気な返答しやがって」

「蟹じゃないと何度言えばわかるんだ」

「ううん、遊星は蟹だよ。海の底でゆったり歩いてるの。居場所をもとめて」

「……それは居場所じゃなくて餌場だろう」

「そうかな?どうかな……」



どこか寂しげな大きな背中が近づく。



「なんで居場所を求めていると思ったんだ?」

「わかんない……みんないなくなっちゃったからかな……ひとりは、さびしいからかなぁ……」

「…………そうか」



あと一歩で、わたしは遊星との距離が0になるところまできた。



「きっと群れで日々をすごしたいんだよ、でもね、みんないなくなっちゃう」

「……」

「みんな、離れて行っちゃうの。けどそれは悪い意味じゃない。嫌われたからとかじゃない」

「……」

「大好きだから、とても。だから、自分が立派に成長して旅立つの。それを喜んでほしいから」

「……」

「貴方は、遊星は、ひとりじゃないよ」




      だって、




あなたたちはとても強く美しい絆で結ばれてるでしょう?




―――わたしとあなたとは違って、



「…………ごめんね、ただの八つ当たりみたいなものだから気にしないで」



さっきから黙ったままの遊星にそういって背を向ける。
近づくのではなく、遠ざかるために歩を進める。
ガレージに来たときに響いていた金属音はなくなっていた。
それに寂寥感と罪悪感を抱きながら、片足を浮かす。

くん、と服を引かれる感触。

動きを止めた一瞬、遊星の両腕がわたしをそれに閉じこめていた。



「遊星?」



背後から抱きしめられた恥ずかしさに、顔に熱が集中する。
彼の顔を見ようと首を後ろにひねるとわたしの肩に顔をうずめた蟹がいた。
不思議に思い、遊星の作業着の腕の部分を引っ張る。



「さみしいんだ、」



独白とも、吐露とも言えるくぐくもった声がわたしの肩あたりから聞こえる。

その声はどこか頼りなくて、弱弱しくて。
でも、もれてくる微かな言葉は、彼の確かな心中で。



「みんな、成長して、ここから、俺のそばから、去っていった。たしかにそれはいいことだけど、」


「とても、さみしいんだ」



一息おいて空に放たれた言の葉は、わたしを揺さぶるには衝撃が強すぎた。



「お願いだ、ひとりにしないで。お前だけが俺のそばにいてくれ。どこかにいこうとしないで」



まるで一人で留守番するのを嫌がる幼児のように、彼は喘ぐ。



素直な感情の吐露。我慢していた思いの独白。



さらけだすように仕向けたのはわたしだけど、



「うん、わかった」
















ありがとうと、笑うアナタ

(ねぇ、さみしかったのはアナタだけじゃなかったのよ)
(行かないでなんて言われたら、サヨナラなんて言えないわ)


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ゴッズ終了おめでとう記念で遊星夢
時間的には、みんな旅立った後。ひとりは寂しい。しかしアニメは見てない。

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