本
□ねぇ、
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とある町の華やかな大通りにあるレストラン。
わたしたちはそこで昼食をとっていた。
会話は特になく、周りの喧騒がやかましい。
さきほど運ばれてきた料理を口に運びながら、旅の道中で出会った元行き倒れバンカーに問い掛ける。
わたしと彼の出会いは、まあ簡単に言えば旅をしていたわたしが、砂漠の真ん中で行き倒れとなっていた彼を助けただけだ。
以来、ずっと一緒に旅をしている。
「ねぇ、レモネード」
「んだよ」
「レモネードはバンカーなんだよね」
「……そんな当たり前のこと、聞くなよ」
「ねぇ、レモネードはどうして金貨を集めるの?
バン王になにを叶えてもらいたいの?」
「そんなのお前に関係ないだろ」
「……そうだけど、」
厳しい瞳を向けられて、思わず口をつぐむ。
知りたかった。彼がどんな人物なのか。
いままでどんな暮らしをしていたのか、どんな理由でバンカーとなり、どんな願いをバン王に叶えてもらいたいのか。
なぜかは、わからない。
自分の気持ちもわからないまま、わたしは彼に質問していた。
無言のわたしを訝しく思ってか、レモネードは鋭い視線をわたしに投げつけてくる。
料理を食べる手も止まり、あたりの騒ぎに隔離されたわたしたち。
なんとなく、『二人の世界』というものを感じた。
「料理、冷めるぞ」
フイ、と感じていた視線がわたしから外されて、レモネードが早く食べるように急かしてきた。
口調はぶっきらぼうだけれども、声は優しさにあふれた音を響かせていた。
「うん」
「早く食わねえと水のリボルバーを喰らわせてやるよ」
「た、食べるから!食べるから待って!」
さすがに水のリボルバー(旅の途中で他のバンカーに襲われた時に見た。威力はハンパじゃない)は喰らいたくないので、少し冷めてしまった料理を口に運ぶ。
うん、冷めてもおいしい。
そう思い、口元をゆるめ、目を細めて笑う。
「ブッ」という不可解な音が前から聞こえてきたので、不思議に思い料理を見ていた目線をレモネードへ移す。
視界に入ったレモネードは横を向いていた。その顔が真っ赤で、口を手で覆い隠していた。
「どうしたの?」
「いや……なんでもない」
「……そう」
ああ、彼はなにもわたしに伝えてくれないのか。
なんでもないわけないじゃないか。
いままでもそうだった。
だからきっとこの先もそうなんだろう。
この先もずっと変わることなどないのでしょう。
わたしはわたしの気持ちに気付けず、彼はわたしになにも告げたりはしないのだろう。
(……なにも言ってくれないのね、あなたは)
((とても、胸が苦しい))
(いつか言わなきゃだよな……)
−−−−−−
悲しいほどにすれ違う。
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