Novel1

□嘘吐きシンデレラ
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「貴方なんで似合うのよ…」

波江は目の前の臨也を見て溜め息を吐いた。
彼女のスカートを着、いつものファーの付いたジャケットを羽織った臨也は自分までも顔を引き攣らせながら、「何でも似合うのも罪だよね」なんてふざけて呟く。


ヤクザの組合が取り仕切る風俗店へ情報を仕入れに行く、というのが今日の目的なのだが、臨也の顔が知れている組合員が多く、正式な情報を通してくれない事があるのを知っている場所だった。
故に、店に客として入り、こっそりと盗み聞きする予定だったのだが、そこは女性しか入れない店であり、臨也が直接入店するには女装をするしか無かった。
波江を使わせるというのも考えなかったわけではないのだが、本人に拒否をされた上に録音機など見つかったらそれこそ危ない。
という訳で、臨也が鬘をかぶり、波江の服を借り、化粧までして侵入することになったのだけれど。


「あのさ…スカート凄いスースーするんだけど…」

「一番長いのがそれなんだから文句言わないでよ…
背は私より高いくせにウエストはそんなに変わらないから仕方ないじゃない」

「ズボンでも良いじゃん…」

「スカートの方が良いかなとか言ったのはアンタよ。今から取りに行くのはめんどくさいから嫌。」

過去の自分の失言を呪いながら、スカートの裾を引き伸ばすように下に引っ張った。
臨也のスカートは、太股の半ばほどの長さで、女性でも穿くのを躊躇う長さである。
男の自分が穿くのもどうかと思うが、波江より背が高くもスカートが入る、なんていう損なのか得なのか判らない事実のお陰で、スカートが妙に短くなってしまった。


「波江さんなら、別に正体がばれても逃げられそうだと思うんだけどな」

「何か言ったかしら?」

僅かな抵抗も、低い声音に潰される。
眉を顰めて波江を睨み見た臨也を軽くあしらうように、整った顔を歪めて溜め息をついた。

「ほら、早く脱ぎたいなら早く行って終わらせなさいよ」

「……」

鏡の前でくるりと1回転。
おかしい所が無いのを確認すると、渋々事務所を出た。



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