Novel1
□「ひみつ。」
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「まぁた怪我したの?」
額に傷をこさえた静雄は、保健室の扉を開けた。
そこには、椅子で寛ぐ黒い服の姿がある。
保健室の先生の服装といえば白衣、というのは所詮イメージであり、実際に白衣を着ている人などそうそう居ない。
まるでそれを表すかのように、その教諭は白とは対照色の黒を纏っていた。
折原臨也、なんていう変わった名前のその教諭は、眉を顰めながら入ってきた静雄へ見下した笑みを返す。
「相変わらず喧嘩?」
「関係ねぇだろ」
嫌悪したような顔で言う静雄を気にした様子も無く、消毒と大きめの絆創膏を用意しながら臨也はクスクスと笑う。
「シズちゃんが強いから、皆挑戦しに来るんじゃない?」
「ノミ蟲が裏で手を引いてるんだろ…!」
「ちょっと、先生、でしょ?
ノミ蟲なのはシズちゃんの頭の中!
それに俺だって大切な生徒を危ない目に合わせたくないよ」
さり気なく酷い事を言いながら、何処までも嘘っぽい声と笑みで臨也は言う。
こんな性格でよく教員採用試験が受かったものだ、と思うのが本音である。
「はい、こっち向いて」
ピンセットに消毒の染みた脱脂綿を挟みながら、臨也は静雄の髪をかき上げた。
「ほら、髪の毛にまで血付いてるよ」
「だから何だよ」
嫌悪感が剥き出しの声で静雄が低く言うと、
「汚れちゃうよ」と言いながら、臨也は傷口を丁寧に消毒した。
口が悪いわりには痛みの少ないように丁寧に手当する臨也を、静雄は上目に見上げた。
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