Novel1

□sweet tooth
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「見ろよ」

静雄の何処か得意げな声に、臨也はその手へ視線を向けた。
そして、顔を僅かに顰める。

「…何さ」

そこには、見覚えのある包装がひとつ。
少し離れて座る門田を見れば、苦笑しながら新品の飴の沢山詰まった袋を掲げてくれた。

それを思い出すのは容易く、臨也は数日前の会話の記憶の中から引き出した。

『さっき最後の一個ってドタチンに貰ったんだよ。
美味しいよ、本当に』

古びた映写機のように瞬くのは、忘れもしない屋上でのこと。
飴の甘い香り。
柔らかい感触に、温かな体温。
口内から奪い取られた飴玉の行き先。
再び戻ってきた飴玉の温度。


それを思い出した臨也の顔は一瞬で真っ赤に染まり、
それを誤魔化すように敵対心を剥き出しの目で静雄を睨んでやった。

しかしそれを、静雄自身が飴を貰った事への苛立ちと受け取ったらしい。
嫌味ったらしく鼻で笑い、たった1つの飴を臨也に見せ付ける。

「テメエも甘いもの好きなのかよ?」

今まで甘味好きを馬鹿にされてきた分のお返しとでも言うように、静雄はそう言った。
臨也は肯定しようと否定しようと馬鹿にされる事を感じ、片頬を膨らませる。

臨也だって、静雄ほど鈍感ではない。
彼のしたように口内から飴をキスで奪う、なんて出来るはずも無い。

考え、考え、悩んだ挙句――


パシッ

「な…!?」

静雄は、自分の手元から奪い去られた飴玉の行き先、臨也の手元に目を向ける。
しかし、一瞬前まで臨也の居た場所には誰もおらず。
見回せば、教室を出て行こうとする臨也の姿があった。

「ッ待て臨也あぁぁあ!!」

室内の生徒の恐怖の視線に併せ、「またやってるよ…」という新羅と門田の視線を浴びながら、
静雄は臨也を追って教室を走り出ていった。

「…解りやすいね、臨也って」




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