Novel1

□機械の恋
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それに気がついたのは静雄だった。
依然静雄へ棘のある言葉を吐き続ける臨也の掴んだ襟首を離す。
予想外なことに口が止まった臨也へ、静雄はサイケを慰めるように撫でながら言った。

「テメエの事を思って言った奴をそんな邪険に扱うことねぇだろ」

臨也の見開かれた目が、静雄とサイケを見、直ぐに冷淡に細められた。
初めて向けられた、冷たい、痛い視線にサイケは肩を震わす。
臨也は、その顔を歪ませた。


「それなら、サイケはシズちゃんにあげるよ」


「…!」

その言葉に、サイケは絶句した。
マスターに捨てられる事は、存在の意味が無いのと同じだから。

硬直したサイケを見た静雄は、
頭を撫でていた手でサイケの手を掴んだ。
我に返ったサイケを引くと、振り向きざまに臨也へ毒づいた。


「人間じゃないから愛護対象じゃねぇってなら、それで構わねぇ。
テメエなんかに愛されるとか、反吐が出る」


そのまま、静雄に引かれて玄関を出て行った。

…扉が閉まるまでの、ほんの一瞬。
泣きそうに歪められた臨也の表情に気がつきながら――。




「すまねぇな、適当に座ってろ」

静雄の言葉に、サイケはカーペットに腰を下ろした。
少し距離を置いた場所に座った静雄は煙草を吸い出す。
不規則にゆらゆらを揺れ動く煙。
それを目で追っていると、不意に静雄に話しかけられる。

「ごめんな、勝手に連れ出して」

「…え、あ、いや…」

サイケは俯いて、返事を濁した。


マスターは、静雄さんが好きだ。
同じように、俺も静雄さんが好きだ。

初めてマスターが肩を落として帰宅した日、どうしたのかと尋ねた。
平和島静雄。
いつもいつも飄々としているマスターの調子を崩す事の出来る、知らない人。
マスターがそれが恋心故だと勘付いた頃、静雄さんが家に押しかけてきた。
『ああ、あの人なんだ。マスターの好きな人は。』
そう、ぼんやりと思う日々が続き、同時に知った。
恋愛感情という、機械にあるべきではない感情を。


「家には帰るのか?」

不意な言葉に肩を震わせたサイケは黙り込んだ。

マスターのボーカロイドとして、戻った方が良いのだろうか。
もう捨てられたのだと言い聞かせて、別のマスターを探すべきなのか。
…それとも、静雄の家に居させてもらいたいのか。

きっと、今のまま選んだら、自分は最低な存在になる。
でも……



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