Novel1

□機械の恋
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サイケは静雄の家に来た、歌う機械、ボーカロイド。
今しがた自分が此処に居るのは、本来の主人である折原臨也と喧嘩をしたからだ。

と言うのも、発端は何時ものように静雄が臨也の家に来たことだった。



『いーざやくーん?』

扉の向こうから静雄の声が響く。
歌う練習を終えてソファに座っていたサイケは、
動き出さない臨也を見て、自分が出た方が良いのかと代わりに立ち上がった。
臨也は横目にサイケを見やる。

サイケ自身も、臨也と静雄が仲が悪いことは百も承知だった。
会うたびに喧嘩をしているのも知っている。
でも、不遜な態度をとっていても、本当はマスターは静雄のことが好きなことも、知っている。
そう、知っている。解っている。

サイケが玄関まで行き扉を開けると、やはり苛立ったような静雄が立っていた。
しかし、臨也と姿形は似ていても性格は似ても似つかないサイケには苛立ちは覚えないらしい。
サイケを見た静雄は、眉間に寄せた皺を少し緩めた。

「サイケ、臨也は居るか?」

「うん、いるけど…」

マスターをよんでも来ないだろうな…。
そう思いながら、呼ぶべきかどうか迷っていた時だ。


「うちのサイケ苛めないでくれない?」

不意に耳元から聞こえた声に振り返ると、臨也が立っていた。
何時もの、気に食わないと言いたげな表情を浮かべて。

「どうしたら苛めてるように見えたんだよ」

再び眉間に皺を寄せた静雄は、
臨也の言葉に気を削がれたように顔を顰めた。

そして、臨也の襟首を掴み上げる。
近すぎるほどに近く顔を寄せて、互いに睨み合った。

「何しに来たの?」

「苛ついたから1発殴らせろ」

「はぁ?自己中も程々にしてよ」

二人は何時ものように、放っておけば刃物や標識を持ち出す言い合いになる。
喧嘩や暴力は好まないサイケはあたふたと二人を交互に見た。
それに、臨也だってこんな風に喧嘩ばかりしたいんじゃ無い筈だ。
今までにも、静雄と酷い喧嘩をして、何時もより無口になる臨也を見てきたから。
そう、昨日だって…。


「け…けんかは良くない、ですよ…ッ」

普段全く口出ししないサイケが突然横槍を出したことに驚いたのだろう。
口喧嘩が止み、二人の視線が集まる。

サイケこそその反応は予想外だったため、どうしたら良いか解らずに俯いてしまった。
…すると、臨也の棘のある声が飛んできた。

「サイケには関係ないでしょ」

尤もな意見に、サイケは俯いたまま口を噤む。
しかし、それを援護するように静雄が口を開いた。

「そんな言い方はねぇだろ」

「はァ?シズちゃんには関係無いから黙ってなよ」

再び、口喧嘩が始まった。
自分のせいで喧嘩になったのかもしれない。
サイケは罪悪感からか、その瞳に涙を浮かべた。



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