Novel1
□Clap&etc
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*Taffy*
「ん、おいひい」
来神高校の屋上、よく晴れた昼下がり。
何時もより少ないメンバーで昼食を終え、飴を口に放り込んだ臨也が言った。
「あ゛ぁ?」
――勿論、いつもならもう少し多くの返事が返ってくるのだが、今日は苛立った声が一人分しか返ってこない。
当然。今日臨也の隣には、金髪の目付きの悪い青年が一人、しかいない。
いつも一緒に昼食を食べている門田と新羅は、先生に委員会活動を頼まれ、食事を早く済ませて行ってしまった。
静雄が臨也に視線を向けると、臨也は口をもごもごさせながら言う。
「さっき最後の一個ってドタチンに貰ったんだよ。
美味しいよ、本当に」
臨也は子供のように、舌の上を転がして見せる。
歯に当たった飴玉は、カラン、と音を立てた。
甘いものは好きだ。
故に、苺牛乳も好き。プリンも、ケーキも。
臨也には今まで散々馬鹿にされて来たが、幼い頃から好きなものは簡単に変えられるはずも無い。
静雄は知らず知らずのうちに無言で臨也を見つめていた。
それに気がついた臨也は、相手を小馬鹿にしたように笑う。
「何?欲しいの?あー、シズちゃん甘いもの好きだもんね」
臨也はそう言って、嫌がらせのように歯で飴を咥える。
臨也の口内にあった飴は、唾液に濡れてキラリと光った。
思わず眉を顰めた静雄へ、臨也はやはり他人を挑発するように言う。
「でも残念だよ、もう俺が食べてるもん」
そう言って、ニッと笑った時だった。
突然、静雄の唇が臨也の唇に触れた。
笑った状態のまま硬直、口を開いたままの臨也の唇へ、濡れた温かい感覚が触れ、そのまま臨也の口内へ侵入した。
「ふぅ…ぁ…!?」
訳が解らず顔を真っ赤にしたまま固まっていると、臨也は気がつく。
静雄の舌は、器用に臨也の口内の飴玉を掬い上げ、唇を離すと同時にそのまま奪い去った。
呆然とする臨也の耳に、先程自分の口内から響いた小気味よい音が静雄の口内から鈍く響く。
「ん…美味えな、これ」
臨也はそこでハッと我に返った。
顔は紅いままに声を上げる。
「し…シズちゃん!!な、何今の!?
て言うか、俺の飴は!?」
勿論、貰った飴を取られたのは気に食わないが、それ以上にキスという行為に至ることが恥ずかしいやら混乱するやら。
飴を奪い取った本人は、主導権を握りニヤリと笑う。
風に揺れた金髪がきらりと光って、その笑顔すら眩しく感じる。
「テメエが挑発したからだ」
「〜〜っ」
図星だから何も言えない。
何時もなら達者な口が何かしらを吐き出して逃げるのだが、その口も魔法をかけられたみたいに動かない。
漸く紡ぎだした言葉は、子供の我が侭さながらの台詞。
「とにかく、飴返してよ!」
勿論、十分に考えれば馬鹿にする言葉のひとつやふたつ出てくるだろう。
だが、先刻のキスが脳内の半分を犯しているため、思考は働かない。
静雄は眉間に皺を寄せるも、はぁ、と溜息を吐いた。
「じゃあ返してやるよ」
「え…」
返す、ってもしかしてまた…
自ら「返せ」と言ったのに、思わず動きを止めた臨也。
その唇は、やはり再び静雄に覆われた。
静雄の舌が入り込み、臨也の口内に飴を送った。
甘い香りが鼻に抜ける、飴玉とキスをしているような気分。
それでも、唇に触れる柔らかく温かい感触は、間違いなく彼。
唇が離れた時には、臨也の口内には飴玉があった。
再び、臨也の口内からカラン、と音がした。
「今度絶対門田から取ってやる…」
そうぶつくさ言いながら屋上を出て行った静雄。
残された少年は、林檎のように真っ赤だったとか。
END