Novel1

□※上書き保存。
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薄手の上着を無理矢理にたくし上げた。
臨也の肩がビクリと跳ね上がりその手を払いのけようとするも、力で敵う相手ではない。

「やだ!やめろ!!」

暴れても暴れても、静雄の手は臨也を組み敷く力を緩めない。
――怖くて怖くて。
果てが無いほどに怖いのは、理由があって。


「いや、やっ」

ぽろ、と、硝子玉のような臨也の瞳から涙が零れる。
その涙に、ハッとした様に静雄の動きが止まった。
脆く儚いほどの表情が崩れ、堪えるような嗚咽が漏れる。
普段とまるっきり違う様子に、驚きと焦りで静雄は腕を離してやることしか出来なかった。

「ご、めん…」

静雄の困惑した声に、身体に連動して小刻みに震える頭が横に振られた。
その肩に手を置き、起き上がらせる。

戸惑いながらも臨也の嗚咽が緩まるのを待ち、それから問い掛けた。

「…何か、あったのか?」

――間を開けて、小さく頷いた。
そして、焦ったように静雄を見ると、口を開く。

「シズちゃんが嫌とかじゃなくて…」

「そうか…ごめん」

その言葉に安堵し、同時に責め立てるように押し倒したのを申し訳なく思いながら、静雄は頷き返した。
すると臨也は、作ったような笑みを無理矢理浮かべ、おずおずと口を開いた。

「高校の時、ちょっと、あって」

「……」

静雄は、臨也をじっと見詰めた。

…焦ったり、困ったり、照れたり、
今までに色んな表情を見たことがあったけど、
ここまで怯えた表情を見たのは初めてだった。
どんなに窮地に追い詰めようとも、いけ好かない態度でするりと危険から抜け出していく。
それが、当たり前だったから。

臨也は、一度下唇を噛み締めると、ゆっくりと口を開いた。



高校の頃は、身体は情報の対価だった。
相手がそれで満足するなら自分も減るものはないし、不満も無かった。

――しかし、ある時。
何時ものように情報の対価として身体を差し出した。
…痛み。
切り裂かれ、殴られ、押し込まれ、鋭い激痛が痩身を襲う。
その相手は、興奮すると加虐心が抑えられなくなる、と言う性癖の持ち主だった。
気がつけば気絶していたらしい。
目を開けると、普段通りに戻った相手が心配そうに臨也を見下ろしていた。
平然を装ったものの、溢れるようにぶり返す記憶が怖かった。
あれ以来、恐怖心が打ち勝ち、身体を対価にすることは無くなった。


一通り話し終わり、沈黙が流れた。
何か言って欲しいのに。
静雄は口を開かず、気まずそうに俯いている。
堪えられずに、臨也は歪んだ笑みを作りだした。
…強がらずには、いられなくて。

「なに俯いてるの?
馬鹿にしたいならすれば良いよ、その時はシズちゃんに死んでもら――」

臨也の言葉は、途切れた。



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