Novel1

□酔いどれマーチ
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――すると、臨也の表情が不意に真顔で固まった。
突然変わった表情に眉を顰めると、臨也は口を開く。

「俺に馬鹿って言いたいの…?」

「…はぁ?」

「そうなんでしょ!?
馬鹿って言いたいんでしょ、シズちゃんの方が馬鹿なくせに!」

会話が明らかに噛み合っていない上に、さらりと悪口まで言ってのける。
苛立ちに口角がヒクリと動く。
が、その口が雑言を紡ぐことは無かった。

突然臨也の瞳が潤み、そのまま涙が頬を伝ったのだから。
予想外なことに驚き慌てる静雄へ、臨也は嗚咽を漏らしながら半ば投げやりに言った。

「シズちゃん俺を馬鹿にしてばっかりじゃん!
俺はシズちゃんのこと大好きだから、だから俺のこと気にして欲しくて馬鹿にしてるのに!」

本心なのか、出任せなのかすら解らない。
何しろ、普段本気なのか嘘なのか解らない口振りで何でもかんでも話す奴だ。
酒が入っているからと言って、全て本心とは限らない。
疑いの眼差しで臨也を凝視すると、臨也の顔は子供のようにぐにゃりと歪む。

「シズちゃんは俺のこと嫌いなんだ…ッ」

いつもなら大嫌いだ、と簡単に言えるのに、先の予想できない状況に静雄はたじろぐ。
しかし、このままでも困る。普段喧嘩していれば全く気にならない周囲の視線が、臨也が泣いているというだけで痛い程に気になる。

静雄は泣きじゃくる臨也の腕を掴み、引き摺るようにして路地裏に連れて行くと、溜め息を吐いた。
本来の気持ち以前に、宥めるのが先決だろう。

「…嫌いじゃねぇよ」

――すると、臨也の泣き声が止まった。
嗚咽を漏らしながら、上目気味に静雄を見上げた。
柄にも無く高鳴った胸が鬱陶しい。

「本当に?絶対?」

よく解らない感情が渦を巻いて、壁に頭を打ち付けたくなる。
そんなことをすれば、壁が壊れそうだが。

「嘘吐いてどうするんだよ」

気がつけば満更でもなくなっている自分がいた。
普段は「嫌い」だの「死ねばいい」だの、友好的な言葉など聞きもしないのに、まさか酒によって聞く日が来ようとは。
実際は、やっぱり本心なのかも解らないけれど。

「そっかぁ…良かったぁ」

にぱ、と柔らかい笑顔で彩られる。
不敵な笑みが似合いすぎる奴でも、こんな笑顔が似合うのか、と納得した。



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