Novel1

□酔いどれマーチ
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久しぶりにお酒を飲んだ。
…と言うのも、事務所の机にワインのボトルが無造作に置いてあり、興味本位で勝手に開けて飲んだのだけれど。
勿論、自分以外の誰かが此処に置いたのだから、出入りしている波江しか有り得ないのだが怒られたらその時。

それなりに値の張るものなのだろう、酸味の少ない芳醇な香りが漂い、鼻腔を擽る。
波江が帰ってこないのを良いことに、マイペースに飲み続けた。




集金が終わり、静雄は街中を闊歩していた。
…と、不意に嫌な予感がし、静雄は街中で歩いている一般人にしては不審なほどに周囲を見回す。

…予想は的中。
眼前に真っ黒な姿を発見。
簡単すぎるほど簡単に苛立ちは臨界点を突破。
直ぐ傍のカフェの看板を、アスファルトの粉砕音を響かせながら容易く引き抜き。
此方に気がつき足を止めた臨也へ、閻魔が如く静雄は歩んで行った。

「臨也君よォ、何で居るんだ?」

ドスのきいた声に、臨也は笑った。
…奇妙なほどに、明るく。

「シズちゃんだぁ」

何処か浮ついた声が、明るく笑った顔から紡がれる。
予想外の反応に目を丸くして看板を手から落とした静雄を見て、臨也はコロコロと笑う。

「シズちゃん変なのぉ」

変なのはノミ蟲だろ。
そう突っ込みたい気持ちで一杯なのだが、この理解しがたい状況に対してあんぐりと開いた口は、ヒクリと口角を震わせただけだった。
よく見れば臨也の頬は仄かに紅く、目も普段の何もかもを見逃さない鋭さを完全に消し、据わっている。

「テメエ…風邪でも引いたか?」

「そんなわけ無いじゃんかぁ」

語尾を間延びさせながら再び笑みを零す臨也は、静雄をぺたぺたと叩く。

微かに葡萄のような香りが鼻につき、まさかと思い再び尋ねた。
すると、笑顔と予想通りの返答が返って来た。

「ワイン美味しかったよ」

酒を飲んだら笑い上戸になるのか、と苦笑を零すと、臨也は「どうしたの?」と無邪気に問い掛けてきた。
相変わらず苦笑を零しながら静雄は返す。

「普段とかなりキャラが違ぇな」


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