Novel1
□池袋心中
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「シズちゃん、最近ヴァローナって女の人と仕事周りしてるんだって?」
「…あ?」
臨也の唐突な言葉に、静雄は目を細めて視線を向けた。
太陽はビルの谷間に沈み、夕闇が辺りを覆い始める。
しかし色とりどりのネオンで彩られている池袋は、夕闇にその存在感をより一層主張していた。
その人工的な光から疎外された路地裏。
先刻まで鬼ごっこの様に池袋の街を走り回っていた二人は、行き止まった路地裏で向き合っていた。
追い詰められている立場の臨也は、作られたような笑顔を端正な顔に浮かべてナイフをクルクルと指先で回す。
「あと、粟楠茜ちゃん?」
臨也の言葉に、静雄は嫌悪をその顔にまざまざと滲ませた。
どうして知っているんだ、と言いたげなその表情に、臨也はただ笑顔を湛えたまま。
「全く、人間じゃなくせにモテるんだから」
「何が言いてぇんだ?」
馬鹿にしたような口調の臨也に明らかに機嫌を損ねた声が響くが、臨也が答えることはない。
代わりに、全く話の繋がりが見えないことで口を開いた。
「ねぇ、曾根崎心中、って知ってる?」
「…知らねぇ」
そうか、と臨也は一人頷く。
そして、ゆっくりと歩を進めて静雄に近付いていきながら、ポツリポツリと独り言のように呟きだした。
「曾根崎心中って言うのは、本当にあった話が基の人形浄瑠璃の演目だよ。
醤油屋の徳兵衛と遊女のお初は恋人同士だった。でも、徳兵衛は叔父に勝手に結婚話を進められたり、友人に酷く裏切られたりしてね。
名誉を取り戻すには、自ら命を絶つしかなかった。」
静雄の前まで歩み、ぴたりと止まった。
その顔を覗き込むように見上げ、ニコリと笑う。
「そして、徳兵衛とお初は曾根崎にある森で心中した。」
臨也は話しきると、その細い手指を静雄の頬へ伸ばした。
その金色に反射する髪に指を通しながら、頬に触れる。
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