Novel1

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…しかし、静雄は動かない。しかも、表情は固まっている。
何があったのか解らない。

「シズちゃん?」

「手前、この跡…」

静雄が口を開く。
何のことか解らず、臨也は静雄の視線の先、手首を見た。

「あ…」

くっきりと紅い、紐で縛られたような跡が、臨也の手首に痛々しい痕跡を残していた。

「どうしたんだ、これ…」

普段生活していてつく跡ではなく、嘘の吐きようが無い。
臨也は思わず黙り込んだ。

無言を貫こうとする臨也に、静雄は苛立った視線を向けた。
そして、臨也の腕を掴んだまま歩き出し、道の隅に行くと、壁に押さえつけた。

動揺を隠し切れないまま、臨也は静雄を見上げる。静雄は厳しい表情で口を開いた。

「誰がやったんだ?」

「…言わない」

静雄に言えば、自惚れとは言わないが帝人に少なからず何かするだろう。
それに対する帝人の対応を見物するのは楽しそうだが、危険すぎる。
あんなことをされた相手なら殺されてもいいとは思うが、彼は見ていて面白い。
故に、殺されてしまうのは惜しい気がした。

これ以上追求しても、答えは望めないだろう。
頑として口を割ろうとしない臨也に、静雄は溜め息を吐いた。

そして、続けて臨也に問い掛けた。

「何されたんだ?」

臨也は再び押し黙った。
『睡眠薬を飲まされて、目を覚ましたら縛られて玩具を突っ込まれてました。』
そんなことを馬鹿正直に話すことが出来る奴が居るだろうか。
プライドの高い臨也には、到底無理な話だった。
俯いてしまった臨也。

…その時、不意に伸びてきた静雄の手が、臨也のソレを布越しに掠めた。

「っぁ…」

突然のことに対応できず、思わず漏らした声。
静雄は、やっぱり、と言うように臨也を睨み見た。
その視線が痛くて、辛くて、臨也は泣きそうになる。

紐できつく縛られた跡、
紅い顔、
無駄に敏感な身体、
とくれば、何があったか突き止められてもおかしくない。

辛かった。怖かった。
話してしまおうか。
…心の中で、誰かがストッパーを外した。

臨也は口を開いた。
唇が、僅かに震えた。

「ちょっと、玩具で弄られた、って言うか…それだけ、」

それだけ。
臨也は、顔も上げられずに、それだけを呟いた。


――突然、腕を引かれた。
臨也は半ば引き摺られるように歩きながら、静雄を見上げる。
静雄は一度臨也を見るが、直ぐに視線を逸らして歩を進めた。



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