Novel1

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相変わらず簡素な帝人の部屋で、臨也は台所でお茶を入れる帝人を座って眺めながら話をしていた。

「で、話って何?」

「あ、もう少しでお茶入れ終わるので待っててください」

帝人の様子に臨也は静かに待っておくことにして、帝人の部屋をぐるりと見回した。
大した家具は無く、教科書が丁寧に整頓され、パソコンが置いてある。
最初に彼の家に入ってから1年ほど経つが、殆ど変わっていない。


「お茶どうぞ」

帝人の声に、臨也は散漫としていた精神を引き戻される。
帝人は両手に持ったコップの片方を臨也に渡した。
丁度喉が渇いていたため、直ぐに一口付け、帝人を見る。
帝人もお茶を飲み、臨也と視線が合うと、首を傾げた。

「どうしたました?…口に合わなかったですか?」

「いや、普通のお茶だけど」

臨也はそう言って、またお茶を口に含み、飲み込む。
そうですか、とホッとしたように帝人は言った。

「ところで、話って?」

臨也が帝人に尋ねる。
帝人は、はい、と思い出したように返事をすると、口を開いた。

「正臣のこと、なんですけど」

予想外な質問に、臨也は一瞬止まる。
しかし、別段取り乱すことは無く、再びお茶を飲みながら言う。

「随分前に病院を退院したことは知ってるよ。
それで?」

退院したことは知ってる。
勿論、今正臣が何処にいるのか、誰と居るのかも、臨也は知っている。
元々、臨也が仕掛けたことが全ての発端だから、尚更に。


――その時、不意に眠気が押し寄せてきた。
瞬きの度に瞼が重くなり、思考が回転速度を弱めていく。

「そ…です…。」

帝人の声が段々と遠ざかっていく。
動揺しながら、コップをどうにか机に置くと、身体から段々と力が抜けていった。

そこで、漸く気がついた。
先刻目を逸らしていた隙に、お茶の中に帝人が何か入れたに違いない。
油断した。
そう思いながら、臨也は崩れるように床に倒れこんだ。

最後にぼんやりとした視界に映ったのは、
冷徹に思えるほどに冷たい、帝人の表情だった。





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