Novel1

□傘をさした黒猫
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その日、黒ずくめの臨也は、黒い傘を差して、池袋を歩いていた。
朝から降り続く雨は、今日中に止むことは無い、と、新人アナウンサーが言った。


雨は嫌いじゃない。
が、中途半端に濡れるのが嫌いだ。
傘は足元までは守ってくれないから、既にズボンの裾や靴は雨に打たれ、湿っている。
どうせなら頭の先から爪先まで一息に濡れてしまいたい。
勿論、風邪を引きたくはないし、そんなことはしないのだけれど。


そんなことをぼんやりと思いながら、自宅まで近道をしようと、ビルの隙間へ入った。


「…シズちゃん?」

臨也の視線の先。
静雄がいた。
モノトーンの服に浮き立つ金髪は、雨に濡れて彼の肌に張り付き、
そのモノトーンのバーテン服もぐっしょりと濡れている。
勿論傘も差しておらず、なぜか、いつも着ている黒いベストを胸に抱えていた。

きょとん、と静雄を見た臨也。
雨音に掻き消される喧騒。騒がしい雑踏を背にすると、急に世界に二人しか生き物が居ない錯覚を覚えた。


静雄も臨也に気がついたようで、視線が交わった。
構えたものの静雄は怒りだす様子ではなく、臨也は安堵して問い掛けながら静雄に歩み寄っていく。

「何してるの?」

廃材を跨ぎながら、雨に打たれている静雄の隣に行く。
静雄は臨也の問い掛けに、自らの腕に視線を落とした。
臨也もそれに合わせて静雄の腕の中に視線を向けた。

黒いベストはもぞりと動き、濡れそぼった小さな黒い毛玉が頭を出した。
毛玉は、立ち上がる小さな耳をぴくん、と揺らして、「みぃ」とか細く鳴いた。

「…猫?」

「そこの段ボールに入ってた」

静雄が指差した先には、「たまねぎ」と刷られた段ボールが置いてあり、
中には3匹の子猫が横たわっていた。
濡れそぼった段ボールの中の、濡れそぼった猫の亡骸。

「こいつだけ生きてたんだよ。
さっき、持ってたパンあげたら元気になって」

静雄は、沈んだ声で言った。
きっと、死んでしまった3匹を悼んでいるのだろう。
シズちゃんは、よくわからない。

「シズちゃん、動物好きだね」

「まぁな」

少し明るくなった声音。
そんな様子に、何だか和まされた。



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