Novel1
□大嫌い!
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「大嫌いってさ、大好きの裏返しだよね」
まだ中学生だった頃、
新羅がふと、そんなことを言った。
臨也は至って普通に返答をする。
「当たり前でしょ、好きの反対が嫌いなんだから」
「そうじゃなくて、裏返しだよ」
臨也の一般論を、新羅はよく分からない自己論で否定する。
怪訝そうな表情を浮かべた臨也に、新羅は一人で自己解釈論を並べていった。
「本当に嫌いな奴って、とにかく嫌いでしょ?
話題に出したくないし、顔も見たくないし、存在しないと思いたいじゃないか。
嫌い、の一言で吐き捨てるのが、一番の『嫌い』だと思うんだよね」
「…だから?」
話の意図が全く見えない。
臨也の半ば呆れすら交えた声には構わず、新羅は続けた。
「だから、わざわざ”大”嫌いなんていうのは、
それなりに相手の行動を見ていて、
自分はすっごい嫌いなんだよ、
って周りに言ってるようなものじゃないか。
皆に『嫌いなんだね』って言って欲しいんだよ。
だって、『大嫌い』って威圧をかけて言われるより、
『嫌い』って威圧をかけて言われる方が、傷つかない?
なんか、大嫌いの方が軽いよね」
「…さぁ……」
よく解らない。
…いや、元々、この新羅と言う人間が、よく解らないけど。
「だって、その人がいると自分の心がコントロール出来なくなるから嫌い、って言うのは、
それは好きなのかも知れないでしょ。」
「だから、いつか、臨也が『大嫌い』って言っちゃう人が出来たら、
実は嫌いでもなくて、案外好きなのかもしれないよ?」
「…よく解らないけど」
「うん、言うと思ってた。
まぁ、恋愛感情なんてろくに抱いたことの無い僕が言うのも難だけどね」
新羅は苦笑しながら言った。
だが、どちらかと言ったら聞き流していた臨也を気にする様子も無い。
きっと、自分の意見を主張したかっただけなのだろう。
そのときの臨也は、理解できなければ理解する気も無かった。
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