Novel1

□手が冷たい人は、
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いつもの喧騒の池袋は、お互いに興味を持たない通行人が行き交っている。
建物の壁に凭れながら、その人波をただひたすら眺める。
傍目から見れば、何が楽しいのか分からない、と言われそうだが、楽しいものは楽しいのだから仕方がない。

何故なら、人が好きだから。
…こんなことをシズちゃんに言ったら、またキレられるんだろうな……

そう思いながら、苦笑を溢した時だった。


噂をすればなんとやら。
数十メートル先、人混みに紛れるバーテン服の姿があった。

「…逃げようかな」

臨也は、壁から背中を離して、足早に歩き出す。
片目を塞いでいる今、細部の距離感が掴めないのだ。
両目を使っていようと、常にスレスレの勝負。
逃げそびれたら、脳漿すら飛び散りかねない喧嘩。
服が破れたり、無駄に怪我したりするのも好きじゃないが、無様に死ぬのはもっての他だ。
最悪、眼帯を外せばどうにかなる。…かっこ悪いけど、そうは言ってられないだろう。
まぁ、気づかれなければ良いのだ。

…しかし、そう上手くはいかないもので。

背後の足音が1つ、突然近くなる。
臨也は走り出し、背後を窺うと、やはり見つかりたくなかった相手で。

「臨也!!」

強く呼ぶ声が聞こえ、周辺の雑踏が乱れる。
平和島静雄というだけで、モーゼの十戒の如く人波が割れていく。
このままこの通りに居ては捕まってしまうのは目に見えていて、臨也は裏通りに入るべく角を曲がった。


どれ程走っただろう。

…なんで?

いつもなら既に撒いているだろう時間逃げているはずなのに、まだ後ろには静雄がいる。
このまま逃げても、きっと延々と追い掛けられるだろう。
まさか、殺すなら視界が不安定な今だ、と思ってるとか?

…そこで、ふと気がつく。

その手には、いつも握られているであろう何かしらの武器がない。
静雄が隠しナイフなど持っているとも思えないし、何か企みが有るとも思えない。


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