Novel1

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「昨日来なかったけど…
何か用事でもあったの?」

臨也の問い掛けに、静雄は「違う」と端的に返した。

…昨日、シズちゃんが来なかった。
シズちゃんが此処に来るようになってから、約3週間。来なかったのは初めてだった。
昨日も、いつものように待っていた。
待って。待って。
でも、シズちゃんの声を聞くことはなかった。
シズちゃんにはシズちゃんの生活があることは分かっている。
それすら分からないほどの子供じゃないのだから。
…なのに、たった1日来なかっただけで、馬鹿みたいに不安になっている自分がいた。
毎日声を聞きたい、なんて、俺一人の我が儘にすぎない。

…付き合って、なんていう我が侭を、きいてもらっておいて。

期限つき。
その条件が、胸に突き刺さる。
自分から出した条件だと言うことは、重々承知だった。
シズちゃんの気持ちもわからないまま、付き合って、と言ったことも、分かっている。
同情で付き合ってくれているだろうことだって。

だから、触れ合うことは望んではいけない。

眼が見えるようになって、シズちゃんを一目でも見られたら、きっと充分すぎるくらい満足なのだ。



何かを考えるように、黙り込んだ臨也。
静雄は僅かに緊張しながら、口を開いた。

「臨也」

「え、なに?」

臨也は、驚いたような声で返事を返すと、
包帯が巻かれた頭を静雄の方へ向け、小首を傾げた。
意を決するように息を飲むと、静雄は口を開いた。

「手前の視力を奪った犯人」

「…え?」

静雄の言葉に、予想すらしていなかった、と言いたげな声が響く。
ずきり。高鳴る胸が、痛む。
でも、言わなければ、何より自分の心が晴れないのは、目に見えていた。


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