Novel1

□3
1ページ/8ページ


それはきっと、否、間違いなく朗報だったのだけれど。
俺には、悲報だったのかもしれない。



「シズちゃん、俺、眼の移植することが決まったんだ」

臨也の病室に訪れて、最初の言葉。
嬉しそうに紡がれた声に、静雄も思わず喜びに沸き立った。

「良かったじゃねぇか、見えるようになるんだろ?」

「うん、神経の繋ぎ合わせが上手くいけば、間違いないって」

今まで聞いた声の中でも特に嬉しそうな声に、静雄も自然と嬉しくなる。
好きな奴が、正常な身体に戻ることが嬉しいのは当たり前。
視覚があるのと無いのとでは、生活だって幾分違うだろう。

そう、これは心から嬉しいことで――


「これで、シズちゃんを見ることが出来るよ」


――嬉しいこと、で。




臨也と会うようになってから、3週間。
期限付きで付き合い始めて、2週間。
…未だに、自分が臨也を傷つけた犯人だと、言えないでいた。

臨也の視力が戻ることは嬉しい。
しかし、素直に喜べないのは、臨也に姿が見られるという事実がついて回るから。
いくら顔は見ていなかったとしても、これだけ鋭い奴に必ずしもばれないなんていう保証は無い。
況してや、病室が解らなくて行き着いた、なんて、わざとらしいことこの上無いのだ。
好きな奴に、期限つきといえど告白された。
だからと言って、浮かれていい立場ではないことを、改めて思い知らされる。


「どうしたの、シズちゃん、黙り込んで」

「え?ああ…何もねぇ」

臨也の不思議そうな声に、静雄は誤魔化すようにそう答える。
臨也は首を傾げながらも、いつもの下らないような話を始めた。



退院するまで。
でも今の打ち明けないままでは、臨也が退院するまでではなく、視力を取り戻す前に別れなければいけなくなる。
…否、打ち明けたとしても、臨也が静雄をはね除ければ、それで終わるのだ。
どちらにしろ、時間と共に別れなければならない。
…でも――。

「畜生…」



***
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ