Novel1
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臨也は、いつものように話し始めた。
それも大抵、病院に籠っているのは暇だとか、静雄のことだとか。静雄の話題に関しては、8割は貶してくるのだが。
…それでも暴力すら奮わずに、この饒舌な人間と接していられるのは、罪悪だけのせいなのだろうか。
最近、よくそう考えるようになった。
臨也に頻繁に会うようになって、罪悪と共に膨れ上がる感情。
その正体は、正直解っていた。
恋、だ。
あろうことか、自分が傷つけた人間を、しかも同性を、愛してしまったのだ。
そこに理由なんか存在しなくて、ただ純粋に「好き」という感情が渦を巻いているだけ。
でもきっと無くなるまで、目の前で雄弁に語るこの青年に、叶わない感情を抱えるのだろう。
「シズちゃん、どうしたの?」
唐突に呼ばれ、静雄は飛びかけていた意識を連れ戻された。
「いや、別に何も」
そう直ぐに返す。
しかし臨也は小首を傾げ、再び何処か楽しそうな笑顔を浮かべた。
「嘘でしょ」
――思わず、ぎくりとした。
臨也は腕を伸ばすと、静雄を真っ直ぐに指差す。
静雄の鼻先まで伸びた指は、不健康なまでに白く、細く。
その指に嵌められたシルバーリングは、無骨にすら見えた。
臨也は、不敵な笑みを浮かべながら、焦ったような顔をする静雄に言う。
「何かあるんだろ、そんな、眉間に皺寄せちゃって」
ピシリと言い当てられた声に、静雄は更に焦る。
何で分かるんだ、まさか目が見えているんじゃ、
そう思った静雄すら、臨也は知っているようで。
「どうして分かるんだ、とか思ってるでしょ?
想像だよ。
シズちゃん分かりやすいから、こんなだろ、って思うだけ」
そう言ってから、でもね、と言葉を区切った。
伸ばした手は静雄の鼻先で広げられ、直ぐに強く握られる。
首を傾げた静雄へ、臨也は笑い声のようで、でも何処か無機質な声で言う。
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