Novel1

□Cold Remedy
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「ねぇ、本当に風邪なの?」

家に上がらせて第一声がそれだった。
僅かに何処か心配そうな感情を孕んだ声に、普段と違う印象を感じながら肯定の言葉を返す。
確かにほぼ回復しているが、本当に病気になっているのかすら疑われるとは。

それからも、ご飯はちゃんと食べてるか、だの、熱は下がったか、だの、
臨也はまるで母親みたいなことばかり言い続けた。

まず、家に訪ねてきた時からずっとおかしかったのだ。
安堵して、心配して、世話焼きな台詞を躊躇いながら吐いて。
まるで普段の奴とは違い、逆に落ち着かず、
静雄はいつものように臨也に毒づいてやった。

「手前に風邪を感染したら、手前を殺しやすくなるよな?」

臨也は一瞬目を丸くする。
しかし次の時には口角を吊り上げていた。

「そんな簡単に俺が殺されるわけ無いから、無駄な努力はよしてよ。
シズちゃんが罹るような風邪なんか、シズちゃんより馬鹿じゃない俺は罹るに決まってるから」

最後はやはり嘲笑を交えた言葉が返ってきて、
僅かに苛立ちを覚えながらも、少なくともこいつは臨也だ、と確信した。


…ふと臨也が口を開く。
いたって普通の声音で、呟くように。

「風邪って、どうしたら感染るのかな」

静雄のベッドに寄りかかり、ねぇ、と仄かに笑みを浮かばせて、臨也は小首を傾げて見せた。
…そして、その表情のまま、ほんの少し震えた声で言った。


「キスしたら、うつる?」


思わず、目を丸くした。
饒舌で、高慢で、他人を見下す言葉ばかり吐くノミ蟲が、
キスしたら感染るか、なんて。

「試してみようか」

あまりにも静かな声で言われ、返事も出来ずにただ静雄は見つめ続けた。

そんな静雄を肯定と受け取ったのだろう、
臨也は、僅かに赤く染まる頬で、触れるだけのキスをした。

「…うつるかな?」

まるで、桜を連想させるような繊細な笑顔で、臨也ははにかんで言う。

恋人でもないのに、友達でもないのに、喧嘩仲なのに。



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