Novel1

□Cold Remedy
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***


ほぼ熱が下がり、自宅療養の静雄は若干のだるさの残る体をベッドに預けていた。

朝、身体の重さを感じながら仕事へ行くと、
異変に気がついたトムに熱を計られ、38度という中々宜しくない体調だと判明し、
そしてそのまま1日は自宅療養と言うことで、家に送り返された。

休みが嬉しくないかと言われればやはり嬉しいのだが、
することもなく寝ているだけというのも暇である。
どうせだからもう一眠りしようか、と目を伏せた時だった。


ピンポン
来客を告げる軽い音が部屋に響く。
こんな時に誰だ、と思いながら身体を起こし、玄関へ向かうと覗き穴から外を窺った。
黒い髪。黒いジャケット。黒いズボン。それに浮かぶ白い肌と白いファー。

見間違うはずが無い。
苛立って苛立って苛立って…苛立って仕方が無いくらいに苛立つ、折原臨也だ。

風邪だと聞きつけて、殺すチャンスだとわざわざ押しかけて来たのだろうか。
そう思ったものの、顔を見た感じではそうでは無さそうだった。
至極落ち着かない表情で、一向に出てこない静雄を心配しているのだろう、
再びチャイムを鳴らそうかと指を伸ばしては躊躇って、視線を彷徨わせていた。
その行動は、普段の彼にしては何処か滑稽で、同時に可愛らしい。

そんな事を考えながら扉を開けてやった。
一瞬臨也の肩は驚いたように跳ね上がり、
静雄に気がつくと、緊張したように強張らせていた頬を僅かに緩ませた。

「シズちゃん…出てくるの遅いから、死んでくれたのかと思った」

唐突にそう言った臨也に、
「やっぱり開けない方が良かったか」と思い、奥歯で歯軋りしたい衝動に駆られながらも、「そんなわけねぇだろ」と返した。
残念だなぁ、と嫌味ったらしく言った臨也だったが、その口振りは普段より幾分大人しい。
こいつも気を遣うことが出来たのか、なんて当たり前なことを考えながら、静雄は臨也を家に上がらせてやった。



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