リクエスト

□唇の温度
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「シズちゃんみたいに童貞じゃないから」

――発端は、臨也のその言葉だった。
酷く挑発じみた、気まぐれの。



始まりは何時もの喧嘩。
追いかけ回してきた静雄を避けるように路地裏に回りこんだ。
早い帰りたいのに。
そう思って、ふざけたように「俺、女の子待たせてるんだよね」と根も葉もない台詞を吐いた。
理由は、シズちゃんは女の子に免疫が無さそうだから、というだけ。
実際は女の子なんて待たせていないし、本能に任せた行為に溺れたことも無い。人間観察のために売ったことが数回だけ。

顰めていた眉を更に不機嫌そうに歪めた静雄へ、
臨也は言い放ったらそのまま逃げ去るつもりで「シズちゃんみたいに童貞じゃないから」と言ったのだ。
低い塀を飛び越えようとした瞬間、それは叶わなかった。
腕を掴まれ、踵を返すことが出来なくなる。
静雄は、不機嫌を湛えた顔で言った。

「それなら確かめてみろよ、テメエの身体で」

一瞬、時間が止まった。
しかし思考は直ぐに回転を始め、臨也は言った。

「いいよ?まず、俺のこと童貞だとでも思ってた?」

やっぱり馬鹿にしたような、プライドで塗り固められた肯定の言葉を。





それから数ヶ月。
相変わらず喧嘩を繰り広げる二人。
しかし、変わったことはお互いが求める時に身体を重ねるようになったことだ。

それは、今日もで。




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